コアスタッフは7月5日、都内で自社の概況ならびに半導体・電子部品市場に関する現状に関する説明会を開催。近年、半導体業界全体を巻き込んだ供給不足問題について、徐々に終息に向かっているとの認識を示した。

  • 戸澤正紀氏

    コアスタッフ代表取締役社長の戸澤正紀氏

半導体業界は2020年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的感染拡大に伴って生じたバブルなどの影響もあり、電子機器の需要に供給が追い付かない状況がこの2年ほど続いてきたが2022年後半から徐々に需要の減退が進み、在庫調整の局面に入ってきた。しかし、一部の製品では入荷が遅れていることもあり、それらを組み合わせて製造される電子機器の場合、1種類でも半導体・電子部品が不足すれば生産はできないため、影響は継続しているという。

そうした市場環境が続いたこの1-2年は半導体デバイスの単価が高騰したこともあり、同社の業績も急上昇。2021年度は前年度比で約3倍の261億円超と躍進。2022年度も同10%増となる289億円ほど、年度後半は市況の軟化があったものの、好業績を維持している。

  • コアスタッフのここ最近の国内業績推移

    コアスタッフのここ最近の国内業績推移。2021年度および2022年度が突出して伸びているが、これは主にデバイスの単価が異常な値上がりをしたことに起因するとしており、2023年度はかなり価格がコロナ前に近い状態で安定しているため、2020年度までの水準の流れに戻る可能性もあるとしている (提供:コアスタッフ、以下すべて)

同社の現状のビジネスモデルは主に「自社在庫販売」「余剰在庫削減」「緊急調達」「CoreStaff ONLINE」の4種類。それぞれのサービスに他社にない強みを発揮することで、事業成長を果たしてきたとする。特に柱であるCoreStaff ONLINEは2022年の年間で約7000社が何らかの商品を購入した実績があるという。

  • コアスタッフの主なビジネス

    コアスタッフの主なビジネス

不足する半導体・電子部品はどのようなものか?

同社の代表取締役社長である戸澤正紀氏は、現在の半導体・電子部品の市況感について、「基本的には全般的な不足は解消しつつあるが、一部の製品で不足が生じている。マイコンだけを見ても、不足しているものとしていないものに分れるなど、品種で特定するといったことが難しい状況。あえて言うなら、抵抗やコンデンサ、パワー半導体などがものによっては100点ほどが搭載されることになる電源モジュールや、パワー半導体系の製品。特に、SiCパワー半導体は各社が積極的に投資を進めているが、IGBTなどの枯れた製品については投資はそこまで行われていない一方で、自動車などのエレクトロニクス化の進展で需要が増加。以前ほどではないが、長納期の状況が続いている」と、最終製品からの需要が高い製品は引き続き、タイトな状況が続いていることを説明する。

  • 現状の半導体・電子部品業界の見通し

    コアスタッフ戸澤氏による現状の半導体・電子部品業界の見通し

また、「需要の面で見ても、コアスタッフの主要顧客は産業機器分野で、半導体製造装置やインフラ設備、エレベータなどのBtoB向けを手掛けている企業。こうした産業分野も、全体的に需要が減少しているかというとそうでもなく、まだら状態となっている」と、半導体や電子部品を使用する産業分野側の状況も企業によって好不況が分かれており、市場の動向を読みづらい状況が続いているとの認識を示す。

半導体市場の停滞はいつまで続くか?

半導体市場は2022年後半から調整局面に入ってきたが、一方で市場調査会社の多くも2023年後半には市場の回復が期待されるとする予測を出してきた。戸澤氏も「そういう意味では3~6月の間に底を打ったと思う」との認識を示す一方、「7月から大きく回復するかというと、リーマンショックの時はV字で回復したが、今回は企業によって好不況が異なっているため、バラバラと回復が始まり、10月ころから目に見える形で回復感が出てくる」との商社として、商流の現場に立ったうえでの感触を語る。

そのため、今後の半導体需要について、以下の4つのシナリオを想定しているとする。

  1. 在庫調整の早期終了(2023年夏~秋)
  2. 在庫調整の長期化(2023年冬~2024年春)
  3. 新設工場のキャパにより回復の長期化(2025年~)
  4. 新設工場キャパと需要回復の長期化の二重苦(2026年~)

在庫調整が順調に進んだ場合、2023年夏ごろには機器メーカーなどの余剰在庫が消化され、半導体メーカーへの発注が回復すると見るのが1つ目。2つ目は、設備投資や消費者需要の弱含みが長く続き、在庫調整が長引いた場合のシナリオで、「(商社の代表取締役を務める立場として)個人的な希望は1番目のシナリオを強く希望する」としつつ、期末(2023年度は2024年3月期末)の問題もあるので、どのタイミングで回復が始まるか、ということを見極めることが重要であることを強調した。

  • 今後の半導体需要の4種類のシナリオ

    戸澤氏による今後の半導体需要の4種類のシナリオ

半導体業界を取り巻く大きな環境変化

2020年から続いてきた新型コロナによる市場の混乱は、半導体業界に大きな変化をもたらした。特に、商社として感じるのが「価格に対する意識よりも入手性や納期を優先するため、値上げを受け入れるようになった」という点だという。また、コロナ禍で進んだアナログからデジタルへの転換が、アフターコロナを迎え、アナログを求める意識も出てきたことから、社会としてもハイブリッドへの変化が進みつつあること、ならびに半導体メーカーの商習慣の変化を踏まえた半導体商社のM&Aによる事業規模の拡大の進展も注目すべき状況だとする。

そうした中、日本市場を見ると、円安や地政学的リスクなどを追い風に国内生産に回帰する動きが見えること、半導体産業の重要性を認識した政府による支援の拡充、デフレの解消に伴う経済活性化への期待、といったものづくり産業に対するプラス要因が見えるほか、半導体商社の統合による寡占化やWebからの購入の常態化といった環境変化が生じている。しかし、世界ではそれ以上の動きが起きており、特に外資系半導体メーカーが、国内でも直販体制を構築・強化して、これまで商社が担ってきた顧客への窓口業務を自社でやり始めたほか、グローバル規模の商社が潤沢は資金を背景とした巨大な倉庫の構築と、膨大な在庫の保有を武器に、日本に向けて積極的な販売施策を実施するといった状況となっているという。

こうした状況にあって戸澤氏はむしろ、「日本の存在感をグローバルに高めるチャンスがやってきたと思っている」と強気の姿勢を見せ、それに対応する体制づくりを進めているとする。

例えば、中小の機器製造企業などは、供給不足によって半導体/電子機器メーカー側の立場が強くなったこともあり、商社などの代理店から購入しようとしても価格で折り合いがつかない場合がでてきたという。そうした事態に対し、コアスタッフは自社で保有する物流センターに、複数の中小企業をクラスター化し、共有化する形で在庫を保有することを考えているという。そうすることで、コアスタッフが支払いや集金の取りまとめ役となり、各半導体および電子部品メーカーとの交渉の矢面に立ち、価格交渉なども規模を大きくする形で行うことができるようになるという。

  • コアスタッフが窓口となる戦略

    コアスタッフが窓口となることで、半導体/電子部品メーカー、中小ものづくりメーカーも1つの窓口だけで顧客対応が可能となるという戦略

コアスタッフでは、こうした取り組みも見据えた形で現在、長野県の既存の物流センター近くに、同社史上過去最大の投資という総工費約50億円をかけた新たな物流センターの建設を進めている。地上4階建ての同センターは延べ床面積が既設の物流センターの5倍超となる約1万5000m2と巨大で、2024年7月の完成、同年9月の稼働を予定している。

  • 新物流センターの概要
  • 新物流センターの概要
  • 長野県で建設が進められている新物流センターの概要

「最近は、顧客から物流業務も担ってくれないか、という相談も受けているほか、購買についても似たような相談を受けている」と、新たな成長に向けた取り組みの強化も見据えている。もともと同社では十数年ほど前から物流のサービスも行ってきたという。それが、現在の顧客の余剰在庫販売などサービスにもつながっており、そうした既存サービスの延長線上の顧客ニーズをうまく取り入れていくことで、さらなる成長を目指すとする。折しも物流業界は2024年問題で知られるように、労働環境の改善が求められるようになっているほか、そうした物流を担ってきた人たちの高齢化なども課題となっており、対策が求められてきた。そうした点でも、商社として物流まで手掛けてきた経験が、コアスタッフの付加価値となっていくとする。

そうした付加価値の点では、EOL(生産終了品)を大量購入した顧客から、その在庫管理を担ってもらいたいというニーズもあるとのことで、そうした顧客の過剰在庫などの管理はグローバルな商社などでも行っていないサービスでもあることから、逆に日本発のサービスとしてグローバル化も目指したいという。

  • 新物流センターの稼働により可能となるサービス拡充例

    新物流センターの稼働により可能となるサービス拡充例

戸澤氏は「日本の半導体商社はグローバル化の波に正面から対応していく必要がある。コアスタッフもそうした自社の強みを活かす形で力をつけていくことで、業界再編の芽になれるように力を付けていきたい」としており、今後も積極的な新サービスの創出なども含め、独立系半導体商社として存在感を増すべく、取り組みを強化していきたいとしている。