東京医科歯科大学は7月4日、「触覚」を有する手術支援ロボットシステム「Saroa サージカルシステム」を用いた世界初となる大腸がんの切除手術を7月3日に実施し、滞りなく手術を終えたことを明らかにした。
対象となった患者は40代で、2023年5月に地域の検診で異常を発見。精密検査の結果、大腸がんの疑いがあると診断されたことから同月、 医科歯科大学病院を受診し「S状結腸がん」と診断され、7月3日の手術実施が決まったという。
Saroa サージカルシステムは医科歯科大、東京工業大学(東工大)、リバーフィールドの3者が共同開発した触角(力覚)を有する空気圧駆動型手術支援ロボット。手術を行うためのアームを3本搭載したペイシェントカートと、外科医がコントロールを行うためのサージョンコンソールで構成されており、力覚フィードバックにより、鉗子で何かを把持した際の感触をダイレクトに指先に伝えることができるほか、サージョンコンソールに備えられているナビゲーションモニタ上に定量数値(ニュートン数)とともにゲージやバーグラフといった形で直感的にどのくらいの力が生じているかを表示することも可能な点が特徴となっている。しかし、ロボットを用いた手術はすでに「ダヴィンチ」などが活用されてきた先例があるが、Saroa サージカルシステムは6月に製造販売承認を取得したばかりで、手術への適用例がまだなく、今回が初適用となったという。
実際の手術時間は約2時間58分ほどで、当該患者は7月4日時点で入院中だが、術後の経過は良好ですでに歩行も開始、一週間ほどで退院する予定だという。
手術を担当した東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 消化管外科学分野 教授で、東京医科歯科大学病院 大腸・肛門外科 教授・診療科長でもある絹笠祐介氏は、「ダヴィンチのサージョンコンソールの場合、医師は接眼部(ビューポート)を覗く必要があり、周囲とのコミュニケーションが難しかったが、Saroa サージカルシステムは3D表示も可能な32型のメインモニタが設置され、それを周囲の人も見ることができるため、ほかのスタッフなどとのコミュニケーションを円滑に進めることができる」と、手術の際のメリットを説明するほか、「手術ロボットには触覚はいらないという人もいるが、経験を積んでいない若手などは、注意が散漫になった際などにミスを起こしやすい。鉗子に触覚があれば、どこかに触れていることが分かるので、そうしたミスを防ぎやすくなる。今回の手術では、始めはナビゲーションモニタの表示データで力覚がどれくらいなのかを参照していたが、途中から指へのフィードバックに変更。その際、画面の端のガーゼを取りに行ったが、パッと取った時、手の中でガーゼがフワッと触る感触が伝わってきた。これは今までなかった感覚で、画面の視野から集中が外れた動作についてもすごく安心感を感じた」と力覚フィードバックのメリットを説明する。
また、ペイシェントカートの重量も492kg、フットプリントも0.91m2と軽量かつ小型化されており、手術室の床が重量に耐えられない、といった問題が発生しにくいところもポイントで、今回の手術でも従来の手術室で問題なく利用することができたとしている。
加えて、絹笠教授は、「手術のやり方次第なところもあるが、ダヴィンチなどの従来の手術ロボットと比べて、手術時間の短縮につながることも期待される」と、今後のノウハウの蓄積などに伴う発展性に期待を示す一方、まだ力覚として、つかんだものを引っ張る際の力や、何かにぶつかった際の力のフィードバックが実装されていない点など、まだまだシステムとしての改良点があることも指摘しており、今後も開発が継続されていくことで、さまざまな手術シーンでの活用につながっていくことに期待を寄せていた。
なお、Saroa サージカルシステムの薬事承認の対象領域は胸部外科(心臓外科を除く)、一般消化器外科、泌尿器科および婦人科の各領域となっており、会見に同席した東京医科歯科大学病院 病院長を務める藤井靖久 教授も「専門は泌尿器科だが、そこも対象領域ということで、近い将来、東京医科歯科大学病院の泌尿器科でも使用していきたいと思っている」と、同病院内での横展開も進めていく意向を示している。