国立天文台(NAOJ)と東京大学(東大)の両者は6月30日、NAOJ 野辺山宇宙電波観測所(NRO)の45m電波望遠鏡や、アルマ望遠鏡を用いて、約1億光年以内の近傍宇宙にある複数の棒渦巻銀河における分子ガスからの星の生まれやすさ(星形成効率)の詳しい解析を行った結果、棒渦巻銀河では、棒部の星形成効率が渦巻腕に比べて系統的に低いことが明らかになったと共同で発表した。

  • (左)渦巻銀河M51。(右)棒渦巻銀河NGC1300。

    (左)渦巻銀河M51。(右)棒渦巻銀河NGC1300。(c)NASA, ESA, and The Hubble Heritage Team (STScI/AURA); Acknowledgment: P. Knezek (WIYN)(出所:NAOJ NROWebサイト)

同成果は、東大大学院 理学系研究科附属 天文学教育研究センターの前田郁弥研究員を中心に、京都大学、会津大学、北海道大学の研究者も参加した共同研究チームによるもの。詳細は、米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal」に掲載された。

天の川銀河のような棒渦巻銀河において、その中心に存在する棒部では、星の材料となる分子ガスや塵の存在を示す「ダークレーン」のみが見られ、星形成が起きていることを示す大質量星に由来する赤い光や、大質量星自体の青白い光は見られない。このことから、棒渦巻銀河の棒部では星形成活動が抑制されている可能性があるという。

星形成の抑制を定量的に評価するには、分子ガスからどれだけ効率的に新しい星が誕生するのかを表す星形成効率を測定する必要がある。これまで、数個の棒渦巻銀河については星形成効率が測定され、渦巻腕に比べて棒部で星形成効率が低く、星形成が抑制されていることが定量的に確認されていた。

しかし、まだ調査が行われていない銀河は数多く存在するため、棒部で星形成が抑制されることは棒渦巻銀河全体で一般的なのか、また抑制の度合いは銀河によってどの程度異なるのか、その抑制の原因が何であるのかなどは依然として不明だったとする。そこで研究チームは今回、近傍宇宙の棒渦巻銀河について、棒部の星形成効率を統計的に調査したという。

星形成効率は、星形成活動の強さを分子ガスの量で割ることで求められる。分子ガスの量は、一酸化炭素(CO)が発する電波輝線を用いて測定でき、近年の野辺山45m電波望遠鏡やアルマ望遠鏡により、近傍円盤銀河を対象としたCO輝線観測が進んだことで、分子ガスのデータは大量に蓄積済みだという。また星形成活動の強さは、米国航空宇宙局(NASA)の赤外線天文衛星「WISE」と、同じくNASAの紫外線天文衛星「GALEX」のデータを基に求めることができるとしている。

棒渦巻銀河の棒部の星形成効率を正確に求めるためには、棒部とそれ以外の領域(中心や渦巻腕など)とを区別できるだけの高い解像度が必要だ。今回は、棒部の大きさに対して星形成活動の強さと分子ガスのデータ解像度が十分に高い銀河17個を抽出し、それらについて望部の星形成効率を求めたとする。

  • 星形成効率が求められた17個の棒渦巻銀河の分子ガスの分布画像。等高線は星形成活動の強さ。マゼンタの長方形は棒部、中心部、バーエンドの領域の定義。左下の黒丸が画像の解像度で、棒部とそれ以外の領域を区別できるだけの十分な解像度があることがわかる。

    星形成効率が求められた17個の棒渦巻銀河の分子ガスの分布画像。等高線は星形成活動の強さ。マゼンタの長方形は棒部、中心部、バーエンドの領域の定義。左下の黒丸が画像の解像度で、棒部とそれ以外の領域を区別できるだけの十分な解像度があることがわかる。(c)東京大学(出所:NAOJ NROWebサイト)

結果として、すべての銀河において、棒部の星形成効率は渦状腕に比べて低いことが判明。つまり、棒渦巻銀河の棒部では系統的に星形成活動が抑制されていることが明らかにされた。また中心部と、棒部と渦巻腕の結合部(バーエンド)では、星形成効率が渦巻腕と比べて高い傾向にあるといい、棒渦巻銀河の内部では、渦巻銀河に比べて星形成効率が大小さまざまな値を示すことも突き止められたとした。

  • (左)中心部・棒部・バーエンドの星形成効率。(中央)棒渦巻銀河内部の星形成活動の描像。(右)棒部とバーエンド領域について星形成効率とCO輝線の速度幅の関係。

    (左)中心部・棒部・バーエンドの星形成効率。黒バツは個別の銀河の結果で、赤四角は17個の銀河の中央値。縦軸は渦巻腕の星形成効率との比で、点線より下側に点が来ると、それは渦巻腕に比べて星形成効率が低いことを意味し、棒部での星形成効率が渦巻腕に比べて低いことがわかる。(中央)棒渦巻銀河内部の星形成活動の描像。(右)棒部とバーエンド領域について星形成効率とCO輝線の速度幅の関係。渦巻腕に比べて速度幅が大きくなるほど、星形成効率が低くなる傾向が見られる。(出所:NAOJ NROWebサイト)

さらに、CO輝線の速度幅と星形成効率の間には負の相関があることも確認された。観測されるCO輝線は、ドップラー効果により観測者との視線方向の相対速度(視線速度)に応じて周波数が変化する。この周波数の変化量を測定することで、天体の視線速度を知ることが可能だ。速度幅とは、周波数で表された輝線の幅を視線速度に換算したものを指す。

つまり、渦巻腕に比べて速度幅が大きくなるほど、星形成効率が低くなる傾向が見られたとする。速度幅の大きさはガスの運動の激しさを表していると考えられていることから、この相関はガスの運動が激しい領域ほど、星形成が抑制される傾向にあることが示唆されるとしている。

今回の結果から、棒部の星形成が抑制されており、この現象がガスの動きの激しさと連動していることが突き止められた。棒渦巻銀河では、棒構造の存在によって銀河円盤の重力場が歪み、分子ガスが楕円軌道を描いたり、銀河中心へ向かったりすると考えられている。これらは渦巻銀河に見られる円運動とは異なるガスの流れであり、その影響でガスの運動が激しくなり、CO輝線の速度幅が広がるという。しかし“星形成を抑制する激しいガスの運動”が、具体的にどのような現象を示しているのかはまだ解明されていない。

その解明に向けては、星の誕生場所となる分子雲の観測が今後重要になってくるとする。理論的な研究では、棒部で強い衝撃波やせん断運動により分子雲が破壊される、または、分子雲が高速で衝突し星形成が阻害されるといったシナリオが提唱されており、これらを検証するため、棒部の分子雲の内部までわかるような高解像度で観測することが今後重要となってくるとしている。