広島大学(広大)の研究グループは、うつ病や不安障害を呈するモデルマウスを用いて、脳の海馬において細胞の働きに必要なエネルギーを産生するミトコンドリアに障害が生じていることを確認したと発表。そのミトコンドリア障害により、炎症性物質であるインターフェロンが増加し、その反応がうつ病や不安障害の発症に重要であることを証明したと報告した。

同成果は、広大 大学院医系科学研究科の森岡徳光教授、中島一恵助教、中村庸輝助教、吉本夏輝大学院生らの研究グループによるもの。詳細は、2023年6月14日に米国科学誌「ExperimentalNeurology」(オンライン版)に公開された。

  • 同研究の概要図

    同研究の概要図(出所:広大)

コロナ禍に伴って、日常生活におけるストレスが多くなった昨今では、うつ病や不安障害といったこころの病気(気分障害)の患者数は増加しているという。また、長期にわたって続く痛み(慢性痛)を何かしら抱える患者は、うつ病や不安障害を発症しやすくなることが知られている。そうした気分障害の治療には抗うつ薬や抗不安薬が処方されるが、約30%の患者では薬が効果を示さず、新たな治療薬や治療法の確立が望まれているとする。

広大の研究グループは、以前より慢性痛モデルマウスがうつ・不安などの行動を示すことを見出しており、これらのモデルマウスの脳内で炎症が生じていることも確認していた。そこで今回の研究ではミトコンドリアの機能異常による炎症と症状の関わりについて調査したという。

調査の結果、慢性痛によってうつ・不安様行動を示すマウスの脳・海馬においては、ミトコンドリアの障害が生じていることを確認したとのこと。その後このモデルマウスに対して、ミトコンドリア機能を改善するクルクミン(ウコンなどに含まれるポリフェノール)を投与すると、うつ・不安様行動が改善したという。さらに、このモデルマウスの海馬で、炎症性物質であるI型インターフェロンが増加し、脳の免疫担当細胞であるミクログリアが活性化していたが、これらの反応もクルクミンにより対照群と同じ程度にまで抑制されたという。

  • ストレスモデルマウスのミトコンドリア障害とクルクミンの効果

    ストレスモデルマウスのミトコンドリア障害とクルクミンの効果(出所:広大)

また、I型インターフェロン受容体に対するIFN受容体中和抗体をモデルマウスに経鼻投与した場合も、ミクログリアの活性化が抑えられるとともに、うつ・不安様行動が改善したとする。

  • ストレスモデルマウスのIFN受容体中和抗体の効果

    ストレスモデルマウスのIFN受容体中和抗体の効果(出所:広大)

研究グループは今後、ストレスがミトコンドリア障害を引き起こすメカニズムやI型インターフェロンによるうつ・不安障害の発症メカニズムについても研究を進めていく予定だとしている。