東北大学は6月30日、発電用ガスタービンの翼破損などに繋がる致命的な状態に至る作動条件を、設計段階や運用前に短期間で予測することができるデジタルツインプラットフォーム「デジタルツイン数値タービン」を、東北大 サイバーサイエンスセンターのスーパーコンピュータ「AOBA」上に構築したことを発表した。
同成果は、東北大大学院 情報科学研究科の山本悟教授らの研究チームによるもの。詳細は、米・マサチューセッツ州ボストンで6月26日~30日に開催されたガスタービン分野の国際会議「ASME Turbo Expo 2023」にて、6月29日に口頭発表された。
日本の第6次エネルギー基本計画では、現在18%しか占めていない再生可能エネルギーを、2030年までに38%まで増加させることが目標とされている。ただし、太陽光や風力などの再生可能エネルギーでは、依然として昼夜や天候の変化による電力負荷変動が電力安定供給への課題となっている。
その変動を相殺して電力安定供給を担っているのが発電用ガスタービンだが、従来の発電時の定格運転とは異なる急速起動・停止や部分負荷運転を頻繁に繰り返す“非設計状態”での運用を強いられ、ガスタービンの寿命を縮めたり翼の破損を招いたりすることが懸念されているという。そのため、どのような作動条件の場合に致命的な作動状態に至るのかを予測できるガスタービンのデジタルツインを開発できれば、ガスタービンの寿命を大幅に伸ばすことが可能になると期待されている。
研究チームがこれまでに開発してきたのが、ガスタービン圧縮機多段翼列を通る湿りを伴った実在する空気流れを、全周に渡って大規模数値計算できるマルチフィジックスCFDアプリの「数値タービン」だ。さらに、2018年度から2022年度まで実施された、東北大大学院 情報科学研究科の小林広明教授が代表を務める文部科学省の次世代領域研究開発「量子アニーリングアシスト型次世代スーパーコンピューティング基盤の開発」(以下「次世代研究」)において、それまで数値タービンで9日要したガスタービン圧縮機1.5段の全周計算期間を、1.3日まで短縮することに成功している。今回の研究では、次世代研究のこれまでの研究成果を踏まえ、新たに発電用ガスタービンのデジタルツインを東北大のスパコンであるAOBA上で開発することにしたという。
今回開発されたデジタルツインは、従来発想のものとは異なり、実測データにはまったく依存しないシミュレーションのみによるものである点が特徴だといい、数値タービンを用いたAOBAによる並列実行により、さまざまな作動条件を設定した数十ケースの大規模全周計算が、1週間で完了する。
その後、計算により得られたビックデータから、各ケースあたり数十の時系列データを抽出し、全ケースを合わせた数百の時系列データからなるシミュレーションデータベース(SDB)を構築したうえで、機械学習により、SDBから1枚の自己組織化マップ(SOM)を作成する。SOMには正常だけでなく、異常と思われる作動状態がクラスタリングされ、翼破損などの致命的な作動状態に至る作動条件を、設計段階や運用前にSOMから瞬時に予測することができるとしている。
世界中で、今後ますます再生可能エネルギーが導入されるのが確実視される中、昼夜や天候の変化による電力負荷変動は、発電機器の故障のみならず、場合によっては大規模停電に至る恐れもあるという。世界中の多くの国々で共通の課題を抱えており、電力の安定供給は持続可能社会にとって欠かせない重要な要素だ。
研究チームは、電力負荷変動に即応できる次世代型の高性能・高効率・長寿命な発電用ガスタービンの実現に向けて、タービンメーカーのみならず電力会社などでの実装を検討しながら、デジタルツイン数値タービンをさらに高度なプラットフォームに進化させていくとしている。