ウイルス感染症の「ヘルパンギーナ」は主に夏に幼い子どもを中心に流行する風邪の一種で高熱が続く。今年はこの夏風邪が本格的な夏の到来を前に早くも全国的に流行する傾向にあることが、厚生労働省などの調べで分かった。東京都や大阪府などでは既に「流行警報」レベルを大きく超えている。政府も「流行状況を注視する」(松野博一官房長官)とし、マスク着用や手洗いなどの感染防止策を呼びかけた。

東京都は22日、ヘルパンギーナの定点当たりの1週間の患者報告数(12~18日)が6.09となり、流行警報レベルの6を超えたと発表。翌週(19~25日)は7.75になったと29日発表し、患者数の増加が顕著になっている。

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    東京都内の今年のヘルパンギーナの流行状況を示すグラフ。24週(12~18日)に流行警報レベルの6を超え、29日の発表によると25週(19~25日)は7.75まで増えた(東京都健康安全研究センター提供)

大阪府も22日、同患者数が6.55で「大きな流行になっている」と発表。29日にはこの数字が7.65になったことを明らかにした。

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    大阪府内の今年のヘルパンギーナの流行状況を示す24週までのグラフ。府は22日、24週(12~18日)の患者数が6.55で「大きな流行になっている」と発表。29日には25週(19~25日)の数字が7.65になったことを明らかにした(大阪府提供)

厚生労働省などによると、30日現在東京都、大阪府のほか、鹿児島県、宮崎県、和歌山県、三重県、群馬県など10を大きく超える都府県で警報レベルを超え、西日本を中心に全国的に流行する傾向にあるという。警報レベルを超えた都府県では独自のヘルパンギーナ警報を出すなど、子どもの保護者や幼稚園・保育園・小学校の関係者らに警戒を呼びかけている。

同省から報告を受けた松野官房長官は23日の記者会見で「ヘルパンギーナは初夏から秋にかけて流行する子どもの夏風邪の代表で重症化すると入院が必要だ。新型コロナの発生以降、昨年まで小規模流行にとどまっていたが、今年は全国的に6月上旬時点で既に過去3年の流行ピークを超えている」と説明した。

さらに同じ様に幼い子どもがかかりやすく、秋から冬にかけて流行する「RSウイルス感染症」も今年は既に流行していると指摘し、いずれの感染症も今後の流行状況を政府として注視するとした上で、両感染症が飛まつや接触で感染することから「マスク着用とせっけんによる手洗いなどの感染防止策に務めてほしい」と述べた。

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    ヘルパンギーナの最近の流行状況について6月23日の記者会見で説明する松野博一官房長官(内閣広報室提供)

国立感染症研究所によると、ヘルパンギーナは発熱と口腔(こうくう)粘膜に現われる水疱(すいほう)性の発疹を特徴とした急性のウイルス性咽頭(いんとう)炎。大多数は「エンテロウイルス属」に属するウイルスが発症原因で、同属の「コクサッキーウイルスA群」である場合が多い。国内の流行は西日本から東日本へと広がる傾向にある。

患者の年齢は5歳以下が全体の90%以上を占め、1歳代が最も多く、次いで2、3、4歳代の順。2~4日の潜伏期を経て突然発熱し、40度の高熱になることもある。発熱に続いて喉の痛みが出て、咽頭粘膜が赤くなり、口内に直径1~5ミリの小さな水疱ができる。感染症に対する抗ウイルス薬はなく、対症療法が中心だが、熱は通常2~4日間程度で下がる。発熱時に熱性けいれんを伴うことや、口内の痛みのために拒食や授乳障害、脱水症などを伴うこともある。親にとっては侮れない子どもの病気だ。

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    大阪府医師会の「げんき情報」に掲載されたヘルパンギーナの主な症状や特徴を表した図(大阪府医師会提供)

幼い子どもの間でヘルパンギーナやRSウイルス感染症が今年は早い時期から流行していることについて、多くの感染症の専門家は新型コロナの感染防止対策によって他の感染症の流行が抑えられて免疫を持たない子どもが増えていることや、新型コロナが季節性インフルエンザ並みの扱いになってマスク着用や手洗いなどの身近な感染防止策が徹底されなくなったことなどを挙げている。

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