大阪大学(阪大)は6月27日、混ぜると霧吹きしても液だれしなくなる、コンパクトで持ち運びしやすい「セルロースナノファイバー乾燥粉末」(CNFパウダー)を開発したことを発表した。

  • 開発されたコンパクトなCNFパウダー

    (左上)開発されたコンパクトなCNFパウダー。(右上)CNFパウダーを水に混ぜると無色透明な液体になる。(下)CNFパウダーを混ぜた液体は霧吹きしても液だれしない(出所:阪大)

同成果は、阪大 産業科学研究所の柳生瞳特任研究員、同・能木雅也教授らの研究チームによるもの。詳細は、ポリマー科学に関する全般を扱うオープンアクセスジャーナル「Macromolecular Rapid Communications」に掲載された。

通常、水のようなサラサラした液体を壁に向かって霧吹きすると、付着した後に液だれしてしまう。一方で、液だれしないように増粘剤を加えると、粘度が高くなり過ぎて、霧吹きそのものができなくなることもある。

  • (a)水は霧吹きすると液だれするが粘度の高い液体は吐出されない

    (a)水は霧吹きすると液だれする。(b)粘度の高い液体は吐出されない。(c)水にCNFを0.5wt%ほど加えると、霧吹きしても液だれしない液体になる(出所:阪大)

そのような中、2006年に東京大学の齋藤継之氏らが幅24nmというCNF中でも微細な「TEMPO酸化CNF」を発表。ノズルを押すと一時的に粘度が小さく吐出され、対象物に付着した後は粘度が大きくなり液だれを防ぐとし、増粘剤として今もなお幅広く商用利用されている。

しかし、TEMPO酸化CNFは、固形分数%・水分90%以上という低固形分濃度ペースト(CNFペースト)の形で流通しており、過剰な水分を含むとして流通・保管の問題が生じているという。また、従来のCNFパウダーは、CNFペーストと比較して、増粘剤の性能が大きく劣っていることも課題だったという。そこで、研究チームは今回、CNFペーストと性能面で劣らないCNFパウダーの開発を試みることにしたとする。

今回新たに開発されたCNFパウダーの製造方法は、まずCNFペーストをエタノールなどの有機溶媒に浸漬(しんせき)させて脱水・凝固を行い、その上で凝固させたものを風乾(ふうかん)させるというもの。

この新手法で製造されたCNFパウダーは、CNFペーストを脱水・凝固しているため、固形分重量の同じCNFペーストと比べると圧倒的に小さな体積になる。また、パウダー1粒1粒が適度な重量を持つことから、静電気で周囲に付着してしまう心配もないという。そして、水に加えた時にCNFが水中で問題なく均一に分散するため無色透明な液体となり、霧吹きしても液だれしないことが確認されたとしている。

別の方法として、CNFペーストを110℃のオーブンを用いて乾燥させるやり方があり、水を含まないためCNFペーストに比べて非常にコンパクトなCNFパウダーを製造することが可能だ。しかし、この方法で製造されたCNFパウダーは、水に加えられてもCNFが液中で均一分散しないため、吐出されたあとに対象物に付着しても粘度が大きくならずに液だれしてしまうという。

  • 110℃オーブン乾燥で作製したCNFパウダーは霧吹きすると液だれする

    (左)110℃オーブン乾燥で作製したCNFパウダー(中)水に加えると水は白濁不透明になる(右)霧吹きすると液だれする(出所:阪大)

さらに別の方法としてCNFペーストを凍らせ、凍った水を昇華させる凍結乾燥もあるが、CNFペーストから水が抜けても体積収縮が起きず、水が存在した場所が空隙として残るため、重量の割に大きな体積になる。そのため、静電気によって周囲に付着するようになり、ハンドリングが非常に難しくなってしまうとした。

  • 凍結乾燥で作製したCNFパウダーは霧吹きしても液だれしないがハンドリングが難しい

    (左)凍結乾燥で作製したCNFパウダー(中)水に加えると無色透明な液体になる(右)霧吹きしても液だれしない(出所:阪大)

一方で、今回の手法で開発されたCNFパウダーは、コンパクトでボリュームが小さいことに加えて、帯電の影響も受けないためハンドリングも可能であり、CNFペーストが抱えていた運搬・保管の課題を解決することに成功したといえると県有チームでは説明している。

  • 開発したCNFパウダーは霧吹きしても液だれしない

    (左)開発したCNFパウダー(中)水に加えると無色透明な液体(右)霧吹きしても液だれしない(出所:阪大)