クラウド会計ソフトを手掛けるfreeeは6月22日、介護領域に参入すると発表した。介護業界の処遇改善加算(介護職員の賃金向上を目的に、介護報酬を加算して支給する制度)を自動計算できる「freee介護加算」の提供を同日より開始した。
同ソフトでは、処遇改善加算を自動で計算するだけでなく、処遇改善加算の計画書・報告書の作成や、加算取得の通知までを行うことが可能。クラウド人事労務ソフト「freee人事労務」を導入している企業は、基本情報をAPIで自動連携でき、従業員情報の転記作業を行うことなく利用可能。今後は外部の介護事業者向けのソフトとも連携を予定している。なお提供価格は、1ユーザーあたり月額300円。
日本では、第一次ベビーブームや第二次ベビーブームと呼ばれる世代が75歳以上の高齢者となる時代、通称「2025年問題」「2040年問題」が控えている。2040年には約3人に1人が高齢者になり、ますます介護職員の供給が追いつかなくなることが懸念されている。経済産業省によると、2035年には高齢者と介護職員の需給ギャップは79万人になるという。
介護人材が不足する背景として、「仕事内容の割に賃金が低い」という慢性的な問題が挙げられる。キャリアスマイルの調査によると、介護業界の退職理由の第1位は「給与の額」だった。労働条件に関する悩みの上位にも「賃金の低さ」という回答が目立った。
厚生労働省は同業界の賃金改善に向け、2009年より処遇改善の取り組みを開始している。処遇改善加算は2012年に初めて創設され、2019年に特定処遇改善加算、2022年にベースアップ等支援加算が追加、合計で3種類ある制度だ。介護サービスの提供内容に応じて処遇改善加算が算出されるが、課題はいくつもあるという。
「処遇改善加算がある一方で、経営者やバックオフィス担当者は手続きの煩雑さが課題になっている。毎月の手当の分配計算がExcelによって行われるなど属人化していたり、処遇改善加算もらうための工数を懸念しそもそも支給を受けていなかったりする」と、freee 業種特化事業部 事業責任者の田井野佐介氏は現状を説明した。
というのも、処遇改善加算の支給までの流れが複雑なことが原因の一つとして挙げられる。まず、介護報酬のうち処遇改善加算を会社独自ルールでグループ間に分配した後、グループ会社の独自ルールで個人間に分配する。そして、毎月の給与に処遇改善手当や賞与として支給し、最後に計画書と支給実績に基づいた報告書を作成して厚労省に提出しなければならない。
分配計算をExcelによる管理で属人化しているケースや、計算の大変さにより支給を賞与のみにしているケースも多くみられるという。計画書や報告書もExcelに手入力して作成する企業が多く、「制度改定も3年1度発生するため、大きな負荷になっている」(田井野氏)とのことだ。
freeeが提供を開始するfreee介護加算は、計画書の作成から手当の自動計算、報告書の作成、加算取得の通知まで対応する。事業者情報や資格情報といった基本情報はfreee人事労務からワンクリックでAPI連携できるため、転記作業は不要だ。
必要情報を入力するだけで計画書は自動作成でき、分配計画をもとに処遇改善手当は自動で計算される。支給頻度や分配ルールも登録可能で入退社時の再計算もできる。
また報告書に関しても、計画書や給与情報の転記をする必要なく、ボタン一つで報告書を自動作成できる。加算の一覧と要件もシステム画面上で確認でき、7月には対象加算を判定しアラートを発出する機能も追加する予定。加えて外部の介護事業者向けのソフトとの連携も予定している。
「介護事業者の事業規模を問わず利用でき、必要情報を入力するだけでオンライン上で自動作成、計算されるためバックオフィス業務の効率化につながるだろう」(田井野氏)