富山大学と北里大学の両者は6月23日、国指定難病であるリソソーム病の1種「ポンぺ病」の治療薬開発の鍵となる極めて有望な化合物の創製に成功したことを発表。ポンペ病の原因酵素に対し親和性を示すイミノ糖の窒素原子に化学修飾を施すことで、活性中心近傍の脂溶性ポケットに対して強固な相互作用を新たに形成できること、さらにその親和性が劇的に向上することを明らかにした。
同成果は、富山大 附属病院薬剤部の加藤敦教授、富山大 工学部 生体機能性分子工学の豊岡尚樹教授、同・岡田卓哉助教、北里大 薬学部の田中信忠教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、「Journal of Medicinal Chemistry」に掲載された。
細胞内小器官のリソソームには、体内で不要となったタンパク質や脂質、糖質などを分解するさまざまな酵素が存在している。リソソーム病は、その酵素が欠損しているために、分解されるべき物質が体内に蓄積してしまう疾患の総称だ。欠損する酵素の種類により約60種の疾患が知られており、日本では約1500人の患者が存在すると推定されている。
リソソーム病に含まれる代表的な疾患としてゴーシェ病、ファブリー病、ムコ多糖症などがあり、そのうちの1つとして今回研究対象となったのが、ポンペ病である。同疾患は、糖加水分解酵素(グリコシダーゼ)の1種である「酸性α-グルコシダーゼ」が欠損、あるいはその働きが低下することで、多数のブドウ糖が複雑につながったグリコーゲンが、筋肉細胞に異常に蓄積してしまう疾患だ。徐々に筋力が低下し、心臓機能の低下、呼吸困難などの症状が現れるといい、日本では約300人の患者が存在すると推定されている。
同疾患に対する有効な低分子医薬品としては、現在臨床試験中でグルコースと極めて類似した構造のアルカロイド「1-デオキシノジリマイシン」(DNJ)がある。このように同疾患の低分子医薬品の化合物デザインとしては糖との相同性、すなわち糖の構造を模倣することが有効な手段であると考えられてきた。そこで研究チームは今回、天然に存在する糖類似化合物の中でも、マメ科植物「Angylocalyx boutiqueanus」に含まれる化合物「1,4-ジデオキシ-1,4-イミノ-D-アラビニトール」(DAB)に着目したという。
DABは、糖の1種であるD-フルクトースに類似した構造を有することから、さまざまなグリコシダーゼに対して阻害活性を発揮する一方、その選択性が課題であり、また阻害の強さも中程度であることから、医薬品としての応用はまったく期待されていなかったとする。
しかし、DABの窒素原子上にさまざまな置換基、特にフェニルブチル基を導入すると、糖との相同性は低くなるものの、活性が劇的に向上し、また選択性も改善することが確認された。特に、DABの窒素原子上に(p-トリフルオロメチル)フェニルブチル基を導入した化合物の「5g」には、ポンペ病患者のリソソーム酸性α-グルコシダーゼの活性を増加させる可能性が示唆されたという。そしてその効果は、現在臨床試験中のDNJと同等だったとする。
ポンペ病を始めとする希少疾患は、患者数が少ないことが理由で、製薬メーカーによる治療薬開発が立ち後れている。現在、ポンペ病の治療法としては、欠損した酵素を外部から補充する酵素補充療法が実用化されているが、酵素製剤を2週間に1回、点滴より静脈注射を行う必要があり、さらに治療が一生続くために治療費が高額となり、患者の負担が大きくなってしまっている。また継続的に高濃度の酵素を点滴するため、効果が徐々に失われてしまうという欠点もあるとする。
今回の研究により見出された化合物の5gは低分子化合物であり、経口投与が可能であると考えられることから、患者の負担軽減や酵素製剤との併用により、相乗的な治療効果が期待されるという。今後研究チームは、5gのポンペ病治療薬としての有効性について、臨床研究を通して検証していくとしている。
また今回の研究のもう1つのポイントは、ドッキングシミュレーションと試験管レベルでの構造-活性相関、さらに患者由来細胞を用いた検証実験を繰り返すことにより、従来見過ごされてきた酵素に存在する化合物の結合ポケットが新たに発見されたことにあるとする。今回の発見をもとに、今後、より強力な候補化合物が見出される可能性が高いと考えられるとした。