オイシックス・ラ・大地は、サステナブルな海に関する事業についての最新動向発表会を開催。海にまつわる環境問題や養殖業にシーフードテックで挑むさまざまな企業が登壇し、自社の取り組みの説明などを行った 。その中から今回は、エビ・うにの養殖に取り組んでいる関西電力と北三陸ファクトリーの挑戦を通じて、養殖事業の現状や課題、展望について迫っていきたい。

エコで鮮度も良いサステナブルなエビ養殖を行う関西電力

関西電力が「海幸ゆきのや」として取り組んでいるのは、陸上でのバナメイエビの養殖である。

  • 海幸ゆきのやが生産・販売しているバナメイエビ

    「海幸ゆきのや」が生産・販売しているバナメイエビ。実がぷりぷりとしていて甘みがある。

現在、世界の魚介類消費量は右肩上がりである一方で、世界の天然漁獲量は横ばい、日本では右肩下がりが続いている。そのような中、国内流通しているエビの95%が輸入であり、そのほとんどが東南アジアからやってくるのだという。

  • 世界での魚介類消費量と漁業生産量、日本の漁業生産量

    (上)世界での魚介類消費量と漁業生産量、(下)日本の漁業生産量(出所:関西電力発表スライド)

日本のエビ輸入の大半を占める東南アジアでは、マングローブ林を伐採して養殖池を開発。生産の際に使用される餌や排泄物による汚水は海へ流されるため、沿岸環境に大きな負荷がかかっているのが現状である。

また、東南アジアから日本への輸送にも多くのエネルギーが必要とされると共に、二酸化炭素も排出するため、我々の食卓にエビが並ぶまでにはあらゆる環境負荷がかけられているのが実態だ。

そこで、海幸ゆきのやは消費地の近くに養殖場を持ち、フードマイレージを大幅低減したエコかつ鮮度も保たれるバナメイエビ養殖の仕組み作りに挑んだという。

  • 国内の需要地近隣での生産加工を行うことでフードマイレージが大幅に低減

    国内の需要地近隣での生産と加工を行うことでフードマイレージが大幅に低減され、二酸化炭素の排出を抑えることができる(出所:関西電力発表スライド)

海幸ゆきのやの陸上養殖は、完全閉鎖循環式を採用しており、育成水槽とは別にろ過槽を設け、微生物の働きやお掃除ロボットなどを活用し水を浄化。循環式としたことで、水中の汚染を防止できるというメリットが得られる。

また、特定病原菌を持たない稚エビを外部からの病原体侵入を防ぎながら屋内で育成することができ、育成過程でも薬品や添加物を一切使用していないため、一度の解凍であれば生食も可能という新鮮そのもののエビを食べることができるというメリットもあるとする。

日本の養殖事業の課題について、海幸ゆきのや 秋田亮社長に問うと、陸上養殖は莫大なコストがかかるため、商業化できている企業が少ないほか、成功事例がほぼないために参入する企業の数がまだまだ少ないことを挙げていた。

そこで、コスト的な課題を打破するにはなにが必要なのかを訊ねたところ、「えさ」「水道光熱費」「人件費」の3つのコスト問題を解消することが必要だとした。

現在の日本の養殖事業の規模感は小さく、養殖用に開発されているえさが少量しか生産されていないため、コスト低減が難しい状態だという。今後、さまざまな企業が養殖事業に参入し、えさメーカーがえさを大量生産できるようになれば、えさのコストが下がることが期待されるとする。

また、水道光熱費は設備自体を省エネにすればコストを削減できるとの考えを示し、海幸ゆきのやでも自動で波をおこすシステムを導入するなど工夫していることを説明。

人件費についても機械化を進めることで解消できるとし、総括として「養殖事業の市場を大きくすること」が第一優先だとした。そのためには、自社が成功事例を生み出しノウハウを共有、安心して参入できるような仕組みを整えることが必要だと述べており、シーフードテックに興味のある企業や自治体に向けて協力を呼びかけた。

弱ったうにを再生し価値を生み出す北三陸ファクトリー

一方の北三陸ファクトリーは現在、岩手県洋野町にてうにの養殖事業や藻場再生事業に取り組んでいる。

  • 北三陸ファクトリーのうに

    北三陸ファクトリーのうに。大ぶりの実で濃厚さが口いっぱいに広がる

今から55年ほど前、海藻が干上がって漁をすることができなかった場所の岩板を削り、海藻が生える環境を整えた「うに牧場」を造成。それにより、昆布の生産量が実施前と比べて5倍近く増加、そうした海藻をえさにするうにやあわびの生産量も、うにが10倍、あわびが25倍に増加したという。

うには英語で「sea urchin」と言われ「海の悪ガキ」という意味があるように、適切な生育環境が整っていないと海藻を食べつくしてしまう凶暴な性質をもっている。海藻がない場所にうにがたくさんいる状態が続くと、「磯焼け」という海中に海藻がない状態になり、うにはやせ細り商品として出荷できなくなるとのこと。

  • 磯焼けの様子

    磯焼けの様子(出所:北三陸ファクトリー発表スライド)

近年、気候変動に伴う海水温の上昇や、海面上昇による海の貧栄養化に合わせて磯焼けが起こり、全国的に海藻が著しく減少。藻場も壊滅状態となり、30年前と比較して80%減少している地域もあるという。

そこで取り組まれているのがうに再生養殖である。これは、磯焼けの原因となっている老齢のうにを水揚げして養殖し、えさを与えることにより実入りの良いうにへ再生しようというもの。磯焼けのうには廃棄に5円かかるが、再生養殖により500円の価値になるのだという。

  • うにの再生養殖は2か月で100倍の価値を生み出すという

    うにの再生養殖は2か月で100倍の価値を生み出すという (出所:北三陸ファクトリー発表スライド)

えさには、「はぐくむたね」という海藻や野菜の粉末が練りこまれたものを北海道大学などと共同で作成し使用。北三陸ファクトリー 代表取締役の眞下美紀子氏にうにが再生する仕組みについて伺うと、はぐくむたねを食べることにより、弱っていたうにの細胞が活性化し、実入りの良いうにへと再生されるのだという。 

うにの養殖事業のメリットとしては、環境を守りながら雇用を生み出すことができる点、海水温が冷たいために生産されていなかった冬においてもうにの提供ができマーケットのニーズにも応えることができる点があるとしている。

眞下氏にうにの陸上養殖についても伺うと、そもそもうには環境の変化に弱く、陸にあげることでストレスがかかり一週間えさを食べなくなりこともあるため、陸上養殖が難しく、さらにコストも莫大にかかるためシフトしていきたい気持ちもあるが、多くの課題が残されていとしていた。

同社は4月12日に、オーストラリアに現地法人を立ち上げており、今後も世界中でうに再生養殖を展開したいとしているほか、日本だけの問題ではなく世界の問題「うにバーサルアジェンダ」(うにと世界を意味する「Universal」をかけている)として同じ目線で課題解決をし、世界の海を豊かにしたいとしている。