新工場の土地取得は年内にも完了予定
ソニーセミコンダクタソリューションズの清水照士社長兼CEOは6月23日、共同インタビューに応じ、次期イメージセンサーの生産を行う新工場建設を目的にした熊本県合志市に27万平方メートルの土地取得に関して、2023年中には取得を完了する予定を明らかにした。取得金額は非公表としたほか、工場建設時期については、「いまは景気状況が悪いため、市場動向を見ながら、タイミングを判断したい」と述べた。
また、2024~2026年度の次期中期経営計画では、2023年度までの第4次中期経営計画と同等規模となる約9000億円の投資を、イメージセンサー分野で計画し、ソニーグループの十時裕樹社長COO兼CFOが、「これまでとは次元が異なる投資が必要になる」と発言していることについてもコメント。「異次元という発言については、コンセンサスは取れていない」としながらも、「第4次中期経営計画と近い数字にはなる。だが、2024年度からの投資は、長崎Fab5への追加投資と、熊本に新たな取得した土地での新工場への投資準備が基本になる。工場投資がメインとなる。しかし、R&Dにも継続投資し、M&Aの検討も進めていく。M&Aは大きい規模ではない」などとした。
TSMC日本工場からのデバイス調達に期待
さらに、TSMCが熊本に建設する第2工場の計画については、「コミュニケーションは取っているが、具体的な話は進めていない」とし、「当社における生産は、現在は40nmがメインであり、今後、22nmが増え、新たに12nmの製造プロセスが入ってくることになる。その世代に入ったときには、TSMCがパートナーとしてはメインになる。日本政府のサポートのもと、TSMC第1工場(JASM)の安定したキャパシティを確保できるのはありがたい。2023年10月から設備を搬入し、1年後に出荷を始めると聞いており、2025年には多くの数を調達することになる」と発言。さらに、「需要が大きいため、TSMCが持つ台湾の既存工場からの出荷も期待している。2027年や2028年頃になると、TSMCの台湾の工場から、22nmや12nmをどれぐらいの調達できるのかという点が課題になるが、日本の第2工場から調達できれば、台湾工場のキャパシティの取り合いが不要になる」などとした。
VR/ARヘッドセットや、カメラ用EVF(Electronic Viewfinder)に搭載されるOLEDマイクロディスプレイについては、「Apple Vision Proがどれぐらいの出荷数量になるのかをウォッチしている」とし、「すでに、4Kレベルの製品ができあがり、市場に導入しているが、お客様との対話を通じて、今後は、輝度や画素数、解像度をあげていくことになる。広視野角のものが欲しいという声もあり、それにあわせてサイズも変わることになるだろう。ソニーが目指しているのは高付加価値路線である。ARの市場規模はそれほど大きくはないが、価格や性能の動向を見ながら、必要なキャパシティはどれぐらいになるのかを捉え、投資計画を考えていくことになる。歩留まり向上や、コストダウンの努力は継続的に進める」と述べた。
今後も主力はモバイル向けも、車載向け事業も順調に成長
同社の主力となっているモバイル向けイメージセンサーについては、「大判化が順調に進んでいる。お客様との話でも、今後は大判化の方向に進むことになると感じている」とコメント。「スマホの年間出荷台数は全世界12億台となっており、今後、数量は大きく増えることはないだろう。だが、イメージセンサーが大判化することで、単価が上昇し、売り上げ上昇につながると見ている。いまは、ハイエンドスマホが売れており、ローエンドのスマホは売れていない傾向にあるが、そこにイメージセンサーが価値を提供できるかが鍵になる。イメージセンサーがスマホの価値を高めることができなくなったときに、イメージセンサー事業も厳しくなる。ただ、今後10年は、スマホメーカーは、イメージセンサーの進化に期待している」と、今後の事業の方向性を語った。
モバイル向けイメージセンサーでは、4Dおよび5Dへの進化を打ち出している。
清水社長兼CEOは、「2Dは二次元情報であり、3Dは深度方向(Depth)であるのに対して、4Dは時間であり、5Dは波長を指す。4Dではこれまでとは異なる技術を活用したEvent-Based Vision Sensor(EVS)により、レイテンシーがない高速読み出しや、ブレの除去ができ、動画特性をさらに高めることができる。EVSとRGBセンサーを合体させることで、スマホでもさらに画質を高めることが可能だ。フレームレートを高め、きれいな動画が高速で撮れる。2年後にはサンプル品を出荷したい。また、5Dは波長であり、偏光イメージセンサーや低照度RGB、NIR(Near-Infrared)などにより、暗いところでも、より良い撮影ができるようになる。これは、クルマにも応用でき、カメラと車載LiDAR用などと組み合わせて、雨天時や夜などに、正確にまわりを認識したいというニーズに対応できる」と述べた。
さらに車載用イメージセンサーに関しては、「後発ではあったものの、2021年度から2022年度、2023年度にかけて、売上高は倍々で増えている。ADAS向けセンサーやリアカメラセンサーなどが中心であり、ダイナミックレンジが高く、フリッカー対策が必要であるといった場合に、ソニーが持つ技術が認められている。これが売り上げ増加の背景にある」とし、「大手自動車メーカー20社で、世界の自動車市場の80%を占めている。そこで商談を獲得していくことに力を注いでいる。すでに、2025年度までの商談はほぼ確定しており、目標に掲げている車載用イメージセンサーで39%の金額シェアが獲得できることは間違いない」と語った。