国立天文台(NAOJ)は6月22日、太陽系の形成途中に近くで発生した超新星爆発の影響を、太陽系の形成現場となった「分子雲フィラメント」が盾となって防いだことが、理論的研究によって示されたことを発表した。
同成果は、NAOJ 科学研究部のアルズマニアン・ドリス特任助教らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal Letters」に掲載された。
これまで太陽系は、天の川銀河内において中心から2億5000万光年前後離れた“郊外”で誕生し、中心からの距離を大きく変えることなく公転してきたと考えられてきた。しかし、およそ46億年前に郊外で誕生した惑星系にしては、重元素の含まれる割合がとても多いことがわかっており、その割合の高さから考えると、より中心部に近い星の過密地帯(棒状構造の回転範囲内とされる)で生まれた可能性があると提唱する研究成果が報告されている。
銀河中心領域の上下に膨らんだバルジ内では、あまりにも星が密集しているため、夜でも昼間のように明るいという。それだけ星が多ければ超新星爆発の発生頻度も高くなるため、中心部の方が郊外よりも重元素の量が早く増えるのである。その一方で、超新星爆発の頻度が高ければ、被害を受けるほどの近い範囲で生じる可能性も高くなる。つまり太陽系は、まるで地雷地帯のような危険領域を通り抜けて外側へと向かい、運よく郊外まで避難できたとされる。
近傍では発生してほしくない超新星爆発は、惑星系が形成されるきっかけの1つともされる。その衝撃で、星間ガスが特に濃い領域である分子雲の濃淡が変化し、より濃い部分ができることでさらに周囲の物質を集めるようになり、星の卵である分子雲コアへと成長していくと考えられるからだ。実際に太陽系においても、隕石の同位体組成の分析結果から、およそ46億年以上前に形成されつつあった時期に近くで超新星爆発が起き、それに由来する放射性元素が太陽系形成現場に降り注いだことが明らかになっている。
一方で超新星爆発は、太陽系の形成がどの段階にあるのか、また発生した衝撃波がどれだけ強いか(どれだけ近くで発生したか)によっては、太陽系の形成を妨げてしまい、今のような太陽系の形成にはなっていなかった可能性もあるという。この矛盾に対しては以前から指摘があったが、これまでのところそれを解消できる定説はなかったとする。
そうした中で研究チームは今回、星が作られる現場の違いに着目したという。星の誕生の場である分子雲の中には、星間ガスがひも状に集まった分子雲フィラメントが存在する。太陽のような小質量星は、この分子雲フィラメントの中で作られるとされる一方で、超新星爆発を起こすような大質量星は、分子雲フィラメント同士が重なった場所で作られると考えられている。
研究チームによる理論的な分析の結果、分子雲フィラメントが重なる場所で起こった超新星爆発の衝撃波は、分子雲フィラメントに吸収され、形成途中の太陽系にはほとんど影響を与えないことが判明したとのこと。また、爆発で放出された放射性元素は、一度分子雲フィラメントに降り注いだ後に、フィラメントから太陽系形成現場へと間接的に運ばれることで、効率的に集められることも明らかになったという。このことは、太陽系も分子雲フィラメントの中で形成されたと考えることができる証でもあるとしている。