アジレント・テクノロジーは6月23日、液体クロマトグラフ質量分析計(LC/MS)の新製品として、「Agilent 6495 トリプル四重極LC/MSシステム」ならびに「Agilent Revident Q-TOF(四重極飛行時間型)LC/MSシステム」を発表した。

  • Agilent 6495の外観

    左が「Agilent 6495 トリプル四重極LC/MSシステム」、右が「Agilent Revident Q-TOF(四重極飛行時間型)LC/MSシステム」の外観 (提供:アジレント、以下すべて同様)

分析機器にインテリジェンスを提供

同社では2製品の開発に際し「Intelligence that Inspires」をメッセージとしたとする。これには、装置そのものにインテリジェンス(知性)を持たせることで、装置の操作などにユーザーの負担を求めず、ユーザーが本来、注力すべき部分に注力してもらいたいという思いが込められているという。

同社としては、これまで質量分析計や液体クロマトグラフィーといった個々の分析装置として捉えるのではなく、それらが有機的に連携して動くソリューションとして提案していくことを考えており、そうした取り組みの実現に向け、すでに2022年6月に発表したトリプル四重極LC/MS「6475」にて、分析装置にインテリジェンスを搭載することを可能とする制御ボード「Powerful Onboard Computing」を搭載。サーバ管理まで含めて、質量分析計の管理をラボ内で回せるような未来を目指すことを表明しており、今回の2製品もそうした未来に向けた機能を提供するべく開発されたものだとしている。

  • アジレントが目指す未来の姿

    アジレントが目指す未来の姿は、装置のインテリジェンス化によって本当にラボスタッフでやりたいことに注力できるようになる世界だという

究極の感度と速度を備えたトリプル四重極LC/MSシステム

今回発表された「Agilent 6495」は2019年に市場投入された「Agilent 6495C」の後継に位置づけられるモデル。これまでの同社であれば、「Agilent 6495D」と型番の後ろのアルファベットが世代ごとに変化していくルールが適用されるところ、今回、ブランド戦略として後ろのアルファベット付与を辞めることにしたという。

トリプル四重極LC/MSシステムとして最高のものを出すという思いが込められているとのことで、Agilent 6495のうたい文句としても「精度と信頼性を備えた 究極の感度&スピード」といったものが挙げられている。

その最大のポイントはAgilent 6495Cの第3世代iFunnelから、第4世代iFunnelへと進化したことで感度のさらなる向上が果たされたという点。フロントエンドイオン光学系の再設計も含め、従来機比で基準物質を用いた比較では、化合物の種類にもよるが大多数のものでおよそ3倍の感度向上を確認しているという。

  • 「Agilent 6495」の特徴
  • 「Agilent 6495」の特徴
  • 「Agilent 6495」の特徴

また、ミリ秒未満のdwell times(検出器が測定対象となるイオンを取り込んで積算するデータ収集時間)も達成しており、より多くの化合物を短時間で測定することも可能としたとする。

さらに、最適化された制御ロジックなどを搭載したPowerful Onboard Computingにより、AIベース(機械学習)の自動最適化アルゴリズムである「SWARMオートチューニング」による短時間での最適解の導出や、メソッド最適化の自動化などの機能を活用できるようになったほか、アクティブなシステム監視によるメンテナンスが必要となって分析装置が止まってしまう前に、メンテナンスの実行を促したり、そのメンテナンスも自動化できるようになった。それにより例えば、ラボスタッフがラボに到着する前に装置が自動でチューニングを開始しておくことで、ラボスタッフが装置の前に到着した時点で、最適な状態にウォームアップしておくといったことや、ピークが残っていないかどうかをチェックするキャリーオーバーや、定量範囲の上限を超える際に自動で注入量を調整する検量線上限、高速で検査を行い、そこで可能性があるものだけ測定を行う高速LCなどといった、分析装置自身が測定結果に対し、問題ないかを自己判断できるような機能を活用することが可能になったという。

  • 「Agilent 6495」に搭載された主なAI機能の概要
  • 「Agilent 6495」に搭載された主なAI機能の概要
  • 「Agilent 6495」に搭載された主なAI機能の概要

新たなQ-TOFのブランド「Revident」

一方のRevident Q-TOFはこれまでの同社のQ-TOFの系譜とは異なり、中身を再設計したイオン光学系と新たなイオン検出系を採用した新規開発品。1から開発しなおしたことで、従来機である6456 LC/Q-TOF比で標準物質を用いた場合の感度が2倍に向上したという。

  • 「Revident LC/Q-TOFシステム」の概要

    「Revident LC/Q-TOFシステム」の概要

ちなみに「Revident」はRevolutionizeとIdentificationを組み合わせた造語で、しっかりとした堅牢性と技術的に裏付けられたものであるという意味として名付けられたブランドネームとなるという。

  • 「Revident」の語源

    「Revident」の語源

また、最適化されたPowerful Onboard Computingの搭載によってAgilent 6495同様の複数のAI機能の活用が可能となっているのに加え、サスペクトスクリーニング法にて、抽出されたターゲット物質の構造推定を自動で行ったり、Iterative MS/MS法の自動で実行したりといったことが可能になったとする。

  • 「Revident」に搭載されたAI機能の概要
  • 「Revident」に搭載されたAI機能の概要
  • 「Revident」に搭載されたAI機能の概要

さらに、高性能化・高感度化によりサブppmの質量精度を実現したとするほか、Q-TOFでの質量分析のためのソフトウェアとして新たに「ChemVistaライブラリマネージャ」と「MassHunter Explorerプロファイリング」も製品化。ChemVistaライブラリマネージャを用いることで、Q-TOFで得た物質をライブラリ化し、リストとして標準物質などと比べることが可能となるほか、R言語やPythonを活用し、機械学習などに適用することもできるようになるという。一方のMassHunter Explorerでは、データ抽出やサンプル識別、分析などをシームレスに行うことを可能としたという。

加えて、装置内部をモジュラーアーキテクチャ化。これによりラボでのメンテナンス性が向上し、ラボへの装置導入後のダウンタイムの最小化を図ることも可能としたとする。

なお、同社としては、現在のフォーカス分野である食品や環境、バイオ/製薬といった分野に限らず、ライフサイエンス分野全体にわたる技術を有していることから、将来にわたってそうした技術の統合を図り、医薬品や細胞分野の開発現場から食品分析まで幅広い分野に向けて一貫した技術の提供を行っていくとしており、「Focus on the Science」をテーマに、ユーザーが装置として求められてきた質量分析計を使いこなす、といった部分を装置自らが補助していくことで、ユーザーが本当にやりたい化学に注力できるような環境構築を目指すとしている。