大阪公立大学(大阪公大)は、ガラスを1分間に約400℃上昇させるスピードで急速に加熱して結晶化させることで、これまで実現が困難だった、高いイオン伝導性を示すリチウム系の固体電解質「Li3PS4」の高温相(α-Li3PS4)を、室温で安定化させることに成功したと発表した。

同成果は、大阪公大大学院 工学研究科の木村拓哉大学院生、同・稲岡嵩晃大学院生、同・井澤遼大学院生、同・中野匠大学院生、同・保手浜千絵研究員、同・作田敦准教授、同・大学 辰巳砂昌弘学長、同・大学院 工学研究科の林晃敏教授らの研究チームによるもの。詳細は、米国化学会が刊行する機関学術誌「Journal of the American Chemical Society」に掲載された。

全固体リチウムイオン電池は、全発火の危険性を取り除くことができ、さらに高エネルギー密度化も実現できることから、次世代蓄電デバイスとして期待が集まっている。この全固体電池を実現するための主役となるのが固体電解質であり、その代表であるLi3PS4には、温度によって異なる3種類の結晶構造(高温安定相からα相、β相、γ相)と、熱力学的非平衡相であるガラスの、大きく分けて4種類の固体状態が存在している。

  • 全固体電池のイメージ

    全固体電池のイメージ図(出所:大阪公大)

イオン伝導体では一般的に、より高い温度で熱力学的に安定な結晶構造が、ほかの構造と比べて高いイオン伝導性を示すとされ、Li3PS4においても高温相であるα相に高いイオン伝導性が期待されているとのこと。しかし、これまで室温において固体として取り扱うことができたのは、低温相と中温相、ガラスの3種類で、α-Li3PS4の室温安定化は実現していなかったという。そこで研究チームは今回、α-Li3PS4を室温で安定化させるため、ガラスを結晶化させる際の熱処理の条件として、目標とする到達温度と保持時間に加えて、昇温速度に着目したとする。

結果、1分間に約400℃上昇させるスピードで約280℃まで急速加熱した後、室温まで急速冷却したLi3PS4において、高温相の結晶構造に対応する特徴的なX線回折パターンが観測され、高温相α-Li3PS4を室温で安定化させることに成功したという。

一方、1分間に約100℃上昇させる遅いスピードで、約280℃まで加熱処理したLi3PS4では、中温相に特徴的なパターンが観測され、熱処理温度が同じ場合でも、昇温速度によって結晶構造が異なることが分かったとした。

また、高温相であるα相は、25℃で10-3Scm-1程度のイオン伝導性を示し、同組成のガラスやβ相の約10倍、γ相に対しては約1万倍もの高いイオン伝導性を示すことが確認されたという。

  • Li3PS4ガラスの結晶構造

    Li3PS4ガラスの結晶構造における過去の研究例と本研究の違い(出所:大阪公大)

研究チームは以上のことより、ガラスを急速加熱し結晶化させることによって、ほかの結晶構造よりも優れた性能を有する高温相を室温安定化できることが実証されたとしたうえで、同研究は全固体電池向けの固体電解質の材料探索だけでなく、さまざまな機能性材料の研究開発に貢献するだろうとしている。