武蔵野大学と東京大学(東大)の両者は6月20日、心拍を感じる、空腹を感じるなどの身体の中の情報を感じ取る能力(内受容感覚)を生後6か月の乳児で測定し、同感覚に敏感である乳児ほど、養育者と見つめ合う(アイコンタクトする)ことを明らかにしたと共同で発表した。

  • 今回の研究のイメージ。

    今回の研究のイメージ。(出所:東大Webサイト)

同成果は、武蔵野大 教育学部 幼児教育学科の今福理博准教授、東大大学院 総合文化研究科の開一夫教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。

これまで成人を対象とした研究では、内受容感覚に個人差があり、他者の感情認識やアイコンタクトの敏感さなどの社会性に関わる能力(社会的認知能力)に対し、重要な役割を果たすことが明らかにされていた。しかし乳児では、内受容感覚の個人差が、社会的認知能力とどのように関連するのかについては未解明だったという。

そこで研究チームは今回、乳児の内受容感覚の個人差が社会的認知能力と関連するのかを調べるため、生後6か月の乳児とその養育者(母親)25組が参加する実験を行った。

乳児研究において「知覚的な感度」を計測する場合には、乳児が馴染みのない刺激に注意を向ける性質が利用される。そのため今回の研究では、乳児自身の心電図のR波(上向きの幅の狭い波)とタイミングが合った同期図形への注目と、逆にR波とはタイミングがずれた非同期図形への注目とのバランスを比較することで、心拍と図形の動きの同期性に対する感度の指標とされた。

そして、乳児が非同期図形を注視した時間の割合を「内受容感覚の敏感さ」として評価。実験では注視した時間を計測するため、同期図形と非同期図形をモニター上の左右に提示し、その間の視線の動きが視線自動計測装置(アイトラッカー)により測定したとする。また養育者に対しても同じ調査を実施したのこと。同じ乳児と養育者で遊ぶ様子を3分間記録し、両者の「社会的行動(アイコンタクト、発声、タッチなど)」を測定して評価を行い、内受容感覚と社会的認知能力の関連が調べられた。

その結果、乳児は同期図形に比べて非同期図形を長く注視し、養育者は非同期図形に比べて同期図形を長く注視することが確認されたという。

  • 乳児の同期/非同期図形への注視時間の割合。

    乳児の同期/非同期図形への注視時間の割合。(出所:東大Webサイト)

以上の結果から、内受容感覚に敏感である乳児ほど、養育者と遊ぶ時にアイコンタクトを多くすることが明らかになったとする。また、乳児の内受容感覚の個人差と関連するアイコンタクトが、養育者の笑顔を介して引き起こされていることが示唆されたという。

  • 乳児の非同期図形への注視時間の割合(内受容感覚の敏感さ)-養育者の笑顔-アイコンタクトの関連。

    乳児の非同期図形への注視時間の割合(内受容感覚の敏感さ)-養育者の笑顔-アイコンタクトの関連。(出所:東大Webサイト)

研究チームによると今回の研究成果は、ヒトの社会性と強く関連すると考えられるアイコンタクト行動が、乳児の内受容感覚という身体の中の感覚を基盤とする可能性を示すという。また今回の研究により、乳児の内受容感覚が社会的認知能力と関連する可能性が実証された。これは、ヒトの社会性発達に内受容感覚が関与するという仮説を支持するものであり、人間理解の新しい視点を提供するとしている。