千葉大学は6月20日、時間の長さの知覚(時間長知覚)がどのような要因で形成されているのかを調査するため、直近の経験が時間長知覚に及ぼす影響について調べた結果、数百回程度の観察経験は影響しないこと、直前の判断とは逆の判断を行うという非学習的で順応的な判断傾向があることが示されたと発表した。
同成果は、千葉大 文学部の尾田拓人学部生(研究当時)、同・大学大学院 人文科学研究院の一川誠教授の研究チームによるもの。詳細は、日本視覚学会が刊行する学会誌「VISION」に掲載された。
ヒトは、時間長知覚のための特定の感覚器を持たないため、知覚系は時間の長さに直接的に対応する知覚情報を得ることができず、正確な時間長知覚は本質的に困難だとされている。
一方で、時間長知覚には、期間中の出来事の数や時間経過に注意を向ける回数、時間の長さ以外の知覚的な量の情報など、本来は時間の長さと直接的な対応関係のないさまざまな要因に対応して決定され、時間長知覚に手がかり的に機能することがわかっており、このことから過去の経験が寄与している可能性が考えられてきたという。
直近の過去の経験が知覚に及ぼす効果を調べた先行研究では、手がかりの「確率学習」と直前の経験による「同化/対比的影響」が要因として見出されたものの、それらが時間長知覚にどのような影響を及ぼすかはほとんど調べられてこなかったとし、研究チームはこの度、時間長知覚における確率学習や同化/対比的影響について検討、経験が時間長知覚にどのような影響を及ぼすのかについて調査を行ったとする。
実験では、各参加者は視覚刺激(動画や静止画)が何秒間ほど提示されたかを判断して回答する試行が計500回行われた。試行には「トレーニング試行」と「テスト試行」の2種類があり、1試行ごとに交互に行われた。
実験参加者は「学習あり条件」「学習なし条件」のグループにあらかじめ分けられており、前者ではトレーニング試行における視覚刺激の長さと提示位置を固定。テスト試行では、どちらのグループも視覚刺激が上下の視野位置のいずれかに1.6、1.9、2.0、2.1、2.4秒間のいずれかの長さで提示された。そして参加者は、トレーニング試行においてもテスト試行においても、それぞれの刺激が1秒間と3秒間のどちらに近い長さだったか判断するというものである。
結果、実験1・実験2ともに、「学習あり条件」と「学習なし条件」との間で、テスト試行における時間の長さの判断に違いがないことが示されたという。この結果は、トレーニング試行における視野位置と視覚刺激の長さとの関係が固定されている経験は、テスト試行における時間の長さの判断に影響を及ぼさなかったことを意味しているとした。
その一方で、直前のトレーニング試行で提示された視覚刺激が1秒間か3秒間かでテスト試行における時間の長さ判断が変わることが静止画像を用いた実験2で示されたことから、直前の視覚刺激の長さに対して対比的な処理がなされ、非学習的で順応的な判断傾向が存在していることも示唆されたという。
なお研究チームは、時間の長さの知覚には期間中の出来事の数や時間経過に注意を向ける回数、時間の長さ以外の知覚的な量の情報などの要因が機能することがわかっているため、今後、これらの要因が時間の長さの知覚に及ぼす影響の基礎について、短期間の随伴的な経験以外にどのような原理が関わっているのかを解明する必要があるとしている。