経済産業省(経産省)傘下の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は6月16日、全固体リチウムイオン電池の早期実用化に向けて「次世代全固体蓄電池材料の評価・基盤技術開発事業を始めた」と発表した。

2023年度から2027年度までの5年間の技術開発計画を実施し「電気自動車(EV)などに搭載する全固体リチウムイオン電池の性能向上と同電池向けの材料開発を加速させる研究開発基盤の構築を目指す」と、同事業を担当するNEDOのスマートコミュニティ・エネルギーシステム部は説明する。

今回の研究開発態勢は、これまでも全固体リチウムイオン2次電池の早期実用化を目指してきた技術研究組合リチウムイオン電池材料評価研究センター(LIBTEC、大阪府池田市)を中核としたものになる。

このLIBTECを代表研究開発機関として「産業技術総合研究所(産総研)、物質・材料研究開発機構(NIMS)、京都大学、名古屋大学(名大)、東京工業大学(東工大)、豊橋技術科学大学、名古屋工業大学、奈良女子大学、北見工業大学、北海道大学(北大)、横浜国立大学、大阪公立大学、早稲田大学、電力中央研究所、日本自動車研究所、ファインセラミックスセンターの合計17法人が参画する」という。

さらに、LIBTECには、同組合員として、トヨタ自動車、日産自動車、本田技術研究所(honda)、マツダの自動車メーカーに、GSユアサ、パナソニック、ビークルエナジージャパン、マクセル、村田製作所などの電池メーカー、三井金属鉱業、出光興産、旭化成、ENEOSマテリアル、大阪ソーダ、関西ペイント、クラレ、小松製作所などの材料系メーカーなど33法人が参加している。

NEDOは、これまでにも2013年度から2017年度に「先進・革新蓄電池材料評価技術開発」(第1期)を実施。全固体リチウムイオン電池の基盤技術と考えられた硫化物系固体電解質の特性評価やプロトタイプを開発してきた。続いて、2018年度から2022年度までの同第2期では、硫化物系固体電解質の標準電池モデルを開発し、材料評価の基盤技術を確立してきた。こうした研究開発実績を基に、今回は硫化物系固体電解質を利用する全固体リチウムイオン2次電池の性能向上や材料評価技術の確立を目指し「日本の蓄電池メーカーやその蓄電池材料メーカーの競争力強化を図る」という。

同事業を担当するNEDOのスマートコミュニティ・エネルギーシステム部は「2023年度は予算18億円で実施する」という。「その研究開発項目は材料評価基盤技術開発、全固体リチウムイオン電池の現象・機構解明、電極・セル(電池の基本構造)の要素技術開発の3項目で構成する」と解説する。

今回の研究開発事業では「全固体リチウムイオン電池の耐久性向上を図る狙いで、図1に示すように、硫化物系材料の劣化要因を改良し、耐久性を向上させる」という。

  • 全固体リチウムイオン電池向けの硫化物系材料の劣化要因を改良し、耐久性を向上させる研究開発項目

    図1 全固体リチウムイオン電池向けの硫化物系材料の劣化要因を改良し、耐久性を向上させる研究開発項目 (NEDOの公表資料から引用)

さらに、全固体リチウムイオン電池の電極・セルの要素技術開発として。固相・固相界面での課題解決を図る材料評価・要素技術開発のポイントを図2として示している。

  • 全固体リチウムイオン電池の電極・セルの要素技術開発となる固相・固相界面での課題解決を図る材料評価・要素技術開発のポイント

    図2 全固体リチウムイオン電池の電極・セルの要素技術開発となる固相・固相界面での課題解決を図る材料評価・要素技術開発のポイント (NEDOの公表資料から引用)

この材料評価・要素技術開発は「標準の全固体リチウムイオン電池の標準電池モデルの開発の基盤になる」という。

注:このNEDOの全固体リチウムイオン電池研究開発態勢の構築の公表時期とほぼ同時期に、主要なマスコミ各社が「経産省がトヨタ自動車に対し、EV向けリチウムイオン電池の開発や生産投資を後押しすることを目的に約1200億円の支援策を実施する」と報道しており、その支援策と今回のNEDOの全固体リチウムイオン電池の研究開発が関連しているものと推測されるが、正確な関係性などについては現時点では公表されておらず不明である。