魚介類などに含まれるアミノ酸に似た物質「タウリン」を中年期の動物に毎日摂取させると寿命が延び、骨量など健康度を示す数値が改善された、と米コロンビア大学などの国際研究グループが発表した。研究者はタウリンの補給が(人間が)長く健康的な生活を送るために役立つ可能性があるとしながらも、老化防止効果を確認するためには臨床試験が必要と指摘している。
日本の厚生労働省の健康情報サイトによると、タウリンはタンパク質が分解される過程でできるアミノ酸に似た物質で、貝類やイカ、タコなどの魚介類に多く含まれる。人間にも体重の約0.1%あり、心臓や肺、肝臓、脳などの臓器や組織に含まれる。生命維持に必要な成分で、消化器管でコレステロールの吸収を抑えるなどの働きが知られている。体内でも作られるが、加齢とともに減ることが分かっている。
米コロンビア大学の発表文などによると、同大学助教のビジェイ・ヤダブ博士らの研究グループは、タウリンには動物の老化プロセスを遅らせる働きがあるとの仮説を立てた。そして、加齢と血中タウリン濃度の関係を調べたところ、同濃度は60歳だと5歳時の3分の1に低下し、マウスやサルも加齢とともに低下していた。
そこで、人間の45歳前後に相当するマウスに毎日1回タウリンを含む溶液を餌に補給し、血中濃度を若いマウスと同レベルにした。すると、タウリンを補給したオス、メスのマウスの寿命は補給しなかったマウスよりオスは10%、メスは12%延びた。この延びは人間では7~8年分に相当するという。
また、人間の60歳前後に相当するマウスに1年間タウリンを補給し、補給しなかったマウスとさまざまな健康指標を比較した。その結果、補給したメスのマウスは加齢による体重増加が抑えられたほか、補給マウスはオス、メスともエネルギー消費量が増し、骨量や筋力も増え、人間の場合うつ症状と言える不安を示す行動も減るなど、補給しないマウスより健康度が高かった。
さらに、細胞レベルでの研究では、細胞内でさまざまな大切な役目をするミトコンドリアの働きを改善し、有害物質を出す「ゾンビ細胞」と呼ばれる細胞を減らし、DNA損傷も抑えたことも確認したという。
ヤダブ博士らは次に、中年期のアカゲザルにタウリンを毎日、6カ月にわたり補給する実験を行ったところ、体重増加が抑えられ、空腹時血糖値や肝機能の数値が改善し、脊髄と脚の骨密度も高めていたことが明らかになった。
研究グループは、これら動物実験とは別に、欧州各国の60歳以上の約1万2000人を対象に体内タウリンのレベルと約50の健康指標との関係を調べた。その結果、血中のタウリン濃度が高い人は2型糖尿病や高血圧が少なく、肥満度も低い傾向だったという。
同グループは今回の研究の前に、24週間運動量を増やすと血中タウリン濃度は高まることを明らかにしている。
ヤダブ博士は「タウリンは年齢とともに低下するが、タウリンの血中濃度が健康や寿命に影響を与える可能性があることが分かった。実験は通常の摂取量以上の量を摂取させたが毒性影響はなかった」とコメントしている。
タウリンは1日500~2000ミリグラム程度が摂取の目安とされる。内閣府の食品安全委員会なども毒性影響は認められないと評価しており、上限値も定められていない。今回の研究からタウリンが健康維持に大切な物質であることは改めてはっきりしたが、栄養学などの多くの専門家は、一般論としてビタミンなどの栄養素の安易な過剰摂取はしない方が良いと指摘している。
研究グループはインドや欧州、オーストラリアなどの研究者で構成し、論文は8日付の米科学誌サイエンスに掲載された。
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