沖縄科学技術大学院大学(OIST)は6月16日、沖縄本島のやんばる国立公園の特別保護地区や石垣島の保存状態の良い亜熱帯林から、新種の「リュウキュウカレキゾウムシ(Acicnemis ryukyuana)」を発見したことを発表した。
同成果は、OIST 環境科学・インフォマティクスセクションの昆虫学者 ジェイク・ルイス氏によるもの。詳細は、甲虫(鞘翅目)の分類学と生態に関する全般を扱う「The Coleopterists Bulletin」に掲載された。
亜熱帯の島々からなる琉球列島には豊かな生物多様性があり、独自の進化史を持つことから、特徴的な固有の昆虫相が存在していることが知られている。OISTでは、2015年から沖縄本島各地に網を設置し、甲虫、ハエ、スズメバチ、ハチなど、さまざまな昆虫を捕獲して観察を行ってきたという。それら捕獲された昆虫はエタノール内で保存され、乾燥後にOISTの昆虫標本集に加えられるといい、ゾウムシの標本集も作成されている。
2022年にOISTに着任したルイス氏は、同大学の保有するゾウムシ標本集の中から新種とおぼしきゾウムシを発見したという。しかしカレキゾウムシ属には180種以上が属しており、新種であることを確認するには、既存の文献や博物館の標本集を入念に調べる必要があったとする。カレキゾウムシ属のタイプ標本(種を記載する際に基準となる標本)は、ヨーロッパや日本の博物館に収蔵されており、ルイス氏は、九州大学(九大) 総合研究博物館、大英自然史博物館、ドイツの昆虫学研究所など複数の機関に問い合わせ、今回発見されたカレキゾウムシが新種であることを確認するに至ったという。
この新種は、現在明らかになっている限琉球列島でしか棲息していないことから、琉球列島の生物多様性を構成する固有種であることを強調するため、「琉球からの」という意味を持つ「ryukyuana」が学名に付けられ、和名は「リュウキュウカレキゾウムシ」と命名された。
リュウキュウカレキゾウムシは、両肩に黄色い縞が入り、丈夫な前翅に灰色、黒色、黄色の鱗片が生えた特徴的な模様をしているため、ほかのゾウムシとの違いを容易に区別することができるという。また、顕微鏡で観察すると、背中や脚の下の方に長い鱗毛があるという特徴も確認できるとする。そのユニークな特徴から、この新種は東南アジアに棲息するほかの種の近縁であると思われるが、確証を得るためにはDNA解析を行う必要があるとしている。
今回、沖縄本島の人口密集地や、人為的干渉の影響がある地域を含む幅広い範囲に捕獲用ネットが設置されていたが、リュウキュウカレキゾウムシが捕獲されたのは、やんばる国立公園の手つかずの特別保護地区のみだったという。また、石垣島でも保存状態の良い亜熱帯林から新種が採取され、九大 総合研究博物館の標本集に収められていたことも確認された。これら採集場所を考慮すると、リュウキュウカレキゾウムシは、琉球列島で多く見られるほかのカレキゾウムシよりも人為的干渉に敏感であることが見受けられるとする。
なお、ゾウムシは地球上で最も多様な動物群のひとつであり、通常は植物を食する。今回発見された新種がどのような植物を食べているのかについてはまだ確かめられていないため、ルイス氏は今後、さらに野外調査を行いその答えを突き止めたいと考えているとした。