IHIは6月16日、航空機などへの利用を想定した、独自開発の空気浮上式ガス軸受電動モータを搭載することで、世界最高レベルとなる出力(同社従来比3.5倍)の電動ターボコンプレッサを開発したことを発表した。
今回の開発は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構の2020年度「航空機用先進システム実用化プロジェクト」の委託業務である「次世代電動推進システム研究開発電動ハイブリッドシステム」において実施されたもの。
開発された電動ターボコンプレッサに搭載されている空気浮上式電動モータは、モータが高速回転する際に周囲に発生する空気層を利用して、回転体を自立浮上させる同社独自の技術(空気(ガス)軸受)が採用されたものである。
こうした技術が搭載されている電動ターボコンプレッサは、燃料電池に水素と反応させる圧縮空気を供給するためのもので、使用条件に合わせて2段圧縮方式と単段圧縮+エネルギー回収タービン方式の両方式があるという。小型で大量の圧縮空気を供給できるのに加え、燃料電池から排出される水蒸気をコンプレッサの動力として活用することで100kWもの出力を得られることから、空気の薄い上空でも大量の圧縮空気を供給でき、燃料電池推進システムによる飛行の実現が可能となるとした。
また、燃料電池システム以外にも、飛行中の薄い外気を圧縮して客室空調へ供給しつつ、従来は外気に捨てている客室の圧縮空気からエネルギー回収ができる電動コンプレッサとしての応用も期待されるとした。
以上のことから、同社では電動ターボコンプレッサを、小型旅客機用の水素燃料電池推進システムや、ガスタービン発電機の代替として脱炭素化を実現できる機内使用電力用の燃料電池発電システムに搭載することを想定。また、現在運航している民間航空機の後継機となる200人乗り中型旅客機の空調の省エネ化などを実現する目的でも搭載することを想定しているという。
さらに同開発においては、電動ターボコンプレッサの大出力化と軽量小型化を同時に実現させることに成功したとしている。
取り組みとしてまず、ターボコンプレッサに搭載されるモータの超高速化と回転部分の徹底した軽量化、そして新開発の大容量空気浮上式ガス軸受を組み合わせ、大型の永久磁石モータの回転子(ロータ)やコンプレッサの大出力羽根車(インペラ)を空気浮上させることで、超高速回転を可能にしたという。
次に、超高速回転による大出力化とモータの小径(小型)化による、永久磁石モータのNS磁極の大幅な多極化で磁石の利用効率を最大化。同時に、独自開発の高速インバータにより回転時に生じる発熱を押さえることに成功し、従来の技術では実現が難しかった発熱による磁石の利用効率低下の課題を解決したとする。この高速インバータは、70kWのモータの正弦波交流電力に対し、毎秒7万回以上の精密なデジタル制御を実現したもの。モータ発熱の原因となる電流波形の歪を抑え、より理想的である滑らかな正弦波電流を供給する技術を適用することで開発に成功したという。
同社では、引き続き航空機の電動化に向けた電動推進システムや航空機発電システムの水素転換にむけた開発に取り組み、2030年代の実用化を目指すと同時に、航空機システム全体の電動化・最適化にも取り組んでいくとした。