大阪公立大学(大阪公大)は6月16日、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が持つウイルスの複製に関係する酵素タンパク質「Nsp14」が、核外輸送の過程で重要な役割を果たすmRNAのキャップ構造の類似体(メチル化GTP)を細胞内で量産することで、核外輸送を阻害することを解明したと発表した。

同成果は、大阪公大大学院 獣医学研究科の片平じゅん准教授を中心に、理化学研究所、大阪大学、愛媛県立医療技術大学、医薬基盤・健康・栄養研究所の研究者も参加した共同研究チームによるもの。詳細は、核酸の代謝や相互作用に関連する全般を扱う学術誌「Nucleic Acids Research」に掲載された。

生物の体内において、mRNAに転写された遺伝情報は、細胞の核から細胞質へ輸送され、タンパク質に変換されることで発現する。この遺伝情報の輸送は、核外輸送と呼ばれる。

ウイルスの複製や増殖を抑制するためには、インターフェロン反応のような宿主側の防御機構が重要とされる。この防御機構を機能させるためには、宿主側の新たな遺伝子の発現が必要になるが、ウイルス側もさまざまな手段で宿主の遺伝子発現を抑制し、防御機構を無力化する能力を備えている。中でも、mRNA核外輸送の阻害による遺伝子発現抑制は、多くのウイルスが取る戦略の1つだという。

SARS-CoV-2の感染時にも、mRNA核外輸送阻害が起こることが知られていたが、そのメカニズムの全貌は明らかになっていなかったとする。そこで研究チームは今回、24種類のSARS-CoV-2のタンパク質の機能を調べ、核外輸送のメカニズムの解明を試みたという。そして研究の結果、新たにNsp14をmRNA核外輸送阻害タンパク質として同定することに成功したとしている。

  • Nsp14によるmRNA核外輸送阻害の概略図。

    Nsp14によるmRNA核外輸送阻害の概略図。(出所:大阪公大プレスリリースPDF)

また、生体内に含まれる低分子量の代謝物質の種類や量を網羅的に調べるメタボローム解析を応用し、Nsp14の調査を行ったところ、同物質は、細胞内のメチル化GTPの濃度を上昇させることが見出されたという。

細胞内で量産されたメチル化GTPは、キャップ構造の類似体、つまり偽キャップ構造として働くことで、mRNAの核外輸送などを阻害し、細胞にさまざまな障害を引き起こす。今回の研究で明らかにされたキャップ構造の類似体生成による核外輸送阻害は、これまでに知られていなかった遺伝子発現抑制戦略であり、SARS-CoV-2感染時に見られるさまざまな病態にも関係することが考えられるとする。

研究チームによると、Nsp14による遺伝子発現抑制がどのような病態に関係するのかを、今後明らかにする必要があるという。またそれにより、今回の研究の成果が、感染に伴うさまざまな症状の治療に役立てられることが期待されるとしている。