NTTは、光パラメトリック増幅(OPA)を用いた広帯域一括増幅中継器を世界で初めて構成するとともに、OPA中継器としては、世界最大となる14.1THz帯域を実現。波長多重信号の一括光増幅中継伝送実験に成功したと発表した。

  • 今回の研究成果の概要

    今回の研究成果の概要 (資料提供:NTT、以下すべてのスライド同様)

今回の14.1THz帯域での長距離一括光パラメトリック増幅中継伝送によって、光ファイバー上で使用可能な波長資源を、従来の増幅中継器の3倍以上に拡張する技術の実現に向けて、その可能性を示したことになる。NTTが推進するIOWNや、6Gにおけるオールフォトニクスネットワーク(APN)の拡張につながる将来の基盤技術になると位置づけている。

今回発表した実験成果では、NTTが独自に開発を進めてきた技術を用いて、伝送容量を低減することなく、光増幅中継間隔80kmを保ち、400kmにわたる長距離一括光増幅中継伝送を実現したことが大きな成果となる。

NTTでは、これまでにもPPLN(周期的分極反転ニオブ酸リチウム)導波路による光パラメトリック増幅を用いた広帯域増幅中継の可能性を、世界に先駆けて実証してきた経緯があるが、その中継間隔は30kmであり、増幅帯域と中継間隔の両立が技術的な課題となっていた。

今回の実験では、光増幅中継においては、光パラメトリック増幅による帯域を最大限活用可能な光増幅中継器を世界で初めて構成。さらに増幅帯域制御技術を融合することで、光増幅帯域を、従来の3倍以上となる14.1THzにまで広帯域化することができたという。

  • 光パラメトリック増幅中経伝送における今回の研究の位置づけ

    光パラメトリック増幅中経伝送における今回の研究の位置づけ

NTT未来ねっと研究所 特別研究員の小林孝行氏は、「現在の光ネットワークでは、光増幅中継器には、約4THzの光増幅帯域を持つEDFA(Erbium doped-fiber amplifier)が用いられ、波長多重された80波長程度のデジタルコヒーレント光信号を、中継間隔約80kmで伝送可能となっている。これまでは既存の光ネットワークと同じ中継間隔を保ちつつ、伝送する1波長あたりの光信号を高速化することによって、伝送容量の拡大を図ってきたが、APNの実現には、80波長よりも多波長な広帯域な光増幅中継器が必須であり、今回の成果は、従来と同じく中継間隔80kmを保ちながら、長距離増幅中継が可能な14.1 THzという世界最大帯域を持つ光パラメトリック増幅中継器を構成し、広帯域波長多重信号の一括光増幅中継伝送に成功した。EDFAに比べて約3.5倍の帯域を実現している」と説明した。

  • NTT未来ねっと研究所 特別研究員の小林孝行氏

    NTT未来ねっと研究所 特別研究員の小林孝行氏

PPLN型光パラメトリック増幅中継器は、80kmの中継間隔に対して、十分な増幅利得を得るために、プリアンプ部となるOPA1と、ポストアンプ部となるOPA2による2段構成を採用している。

  • PPLN型光パラメトリック増幅中継器の概要

    PPLN型光パラメトリック増幅中継器の概要

光パラメトリック増幅では、波長多重(WDM)信号を増幅する場合には、WDM信号の基本波長を中心にして、長波長と短波長の2つの波長帯域に分割して増幅する必要がある。そのため、各増幅段は、長波長帯と短波長帯にそれぞれ分けて、信号増幅用の偏波多重信号に対応し、特性を揃えたPPLN導波路モジュールで構成する必要があった。NTTでは、独自技術によって、特性が揃った複数のPPLN導波路モジュールを実現し、これを適用したという。

  • 光パラメトリック中継器の各増幅部の帯域特性のイメージ

    光パラメトリック中継器の各増幅部の帯域特性のイメージ

NTT未来ねっと研究所 フェローの宮本裕氏は、「特性を揃えたPPLN導波路モジュールは、研究開発レベルでは実現することができた。将来的には歩留まりをあげ、量産に耐えられるものに進化させていく必要がある」と述べた。

  • NTT未来ねっと研究所 フェローの宮本裕氏

    NTT未来ねっと研究所 フェローの宮本裕氏

また、先に触れたように、光パラメトリック増幅の「帯域制御技術」を適用。増幅利得のピーク波長を基本波長から遠ざかる方向にシフトさせる帯域制御によって、長波長側では7.5THz以上、短波長側では6.5THz以上まで光増幅帯域を拡大している。従来の実験例と比較して、2倍以上の広帯域化を実現したという。なお、光パラメトリック増幅中継器では、雑音指数は波長が変化しても、ほぼフラットな特性を得ているという。

  • 今回の光パラメトリック増幅中経伝送実験系の概要

    今回の光パラメトリック増幅中経伝送実験系の概要

さらに、提案構成の光パラメトリック増幅中継器と、シングルモードファイバーを用いて、中継間隔80kmの周回伝送評価系を構築して、広帯域光増幅中継伝送実験を実施したという。周回伝送路は、光スイッチで信号の入出力タイミングを制御することで、少ない部材で長距離の伝送評価ができるという。評価用波長多重信号は、チャネル間隔137.5GHzを想定し、OPAの基本波長から短波側に48チャネル、6.6THzを配置するとともに、長波側に55チャネル、7.56THzの信号を配置。合計で103チャネルの波長多重信号とし、伝送品質を測定。合計帯域が14.16THzとなっている。また、各波長のデジタルコヒーレント信号として、シンボルレートが132ギガボーの超高速を実現した偏波多重PCS-QAM信号を採用。増幅中継伝送後の信号特性を評価したという。

「80kmの5スパン中継による400km伝送後で、全波長600ギガビット/秒以上のビットレートと、総容量70.4テラビット/秒を得ており、中継間隔80kmの光ファイバー伝送路において、PPLN型光パラメトリック増幅中継器を用いて14.1THzの広帯域一括光増幅中継伝送に成功した」と、成果を改めて強調。「今回は600ギガビット/秒以上をターゲットとし、それを達成するのが400kmの伝送距離となる。それを超えるとビットレートが下がることになる」とした。

  • 今回の実験系を用いた光増幅中継伝送実験の結果

    今回の実験系を用いた光増幅中継伝送実験の結果

今後の展開については、「これまでの技術では、伝送容量は40テラビット/秒で、数1000km程度まで伝送することが限界であったが、今回の波長資源を拡大した技術に加えて、今後は、電気信号帯域拡大技術による波長あたりのマルチテラビット化を組み合わせることで、100~120テラビット/秒の伝送容量を持つ技術に進化させることができる。伝送容量と距離のスケーラビリティを大きく拡大する技術として期待している」としたほか、「独自のデバイス技術やデジタル信号処理技術、光伝送技術の融合を深化させ、2030年代のIOWNおよび6GにおけるAPNの実現に向けて研究開発を進める」と語った。

なお、この成果は、2023年3月5日から9日まで、米国カリフォルニア州サンディエゴで開催された光通信技術に関する国際会議「OFC2023(The Optical Networking and Communication Conference & Exhibition)」の最難関発表セッションであるポストデッドライン論文として発表されている。