GHG(温室効果ガス)排出量の計測・管理のためのデータ分析プラットフォーム「Terrascope(テラスコープ)」を提供するシンガポール企業のTerrascopeは6月15日、日本法人の設立と日本でのサービス提供開始を発表した。同日には日本市場での事業展開に関する記者説明会が開かれた。
同社はシンガポールの食品・農業関連企業であるOlam Group(オーラム・グループ)のコーポレートベンチャーとして2022年6月に設立された。
すでにポッカサッポロフード&ビバレッジのシンガポール子会社であるPOKKA、三菱商事のグループ会社であるMCアグリアライアンスや三菱食品など複数の企業が同社のサービスを導入している。
食品、農業、消費財、テクノロジー分野の企業から製品提供をスタート
説明会の冒頭では、Terrascopeのシンガポール法人と日本法人の代表取締役を務めるマヤ・ハリー氏が登壇し、「当社の技術力とサステナビリティに関する専門知識を日本市場に提供できることを大変嬉しく思う。Terrascopeは機械学習とデータサイエンスを駆使し、さまざまなデジタルツールによってカーボンフットプリントを測定だけでなく、削減までも支援できる」と同社製品を紹介した。
同プラットフォームでは、GHGのスコープ1(自社での直接排出量)、スコープ2(他社から提供された電気、熱などをしたことによる間接排出量)に加えて、Scope3(製品の原材料調達から製造、販売、消費、廃棄に至るサプライチェーン全体の排出量)の計測・管理ができるデータや、ML(機械学習)を活用したデータ解析機能、データ管理のためのツールなどをSaaS(Software as a Service)で提供する。
Terrascope サステナビリティアドバイザーの小木曽麻里氏は、「国内では現在、炭素の可視化・公表が注目されているが 重要なのはいかに減らしていくかだ。プラットフォームで管理するデータは炭素に関する情報開示に利用できるだけなく、カーボンフットプリントのより少ない新製品を作る際にも役立つだろう」と説明した。
同プラットフォームを利用することで、企業のバリューチェーンにおけるデータギャップを自動的に識別したり、排出量データのない製品についても構成部品ごとに分割して排出量を推定したりできるという。
また、特定の領域における脱炭素化案や、データ収集における改善可能な領域を特定するために機械学習でデータ推定を行うことも可能だ。このほか、GHG排出量削減の目標設定と進捗状況の管理、部門横断での行動計画の作成や役割の割り当て、四半期ごとのGHG排出量のレポーティングなどにも活用できる。
同社は日本市場において、食品、農業、消費財、テクノロジー分野の企業に対して同プラットフォームを提供していく方針だという。すでに日本語版サービスをローンチ済みで、今後は日本語でのカスタマーサポートも行う。
オーラム・グループでは過去10年間、自社のオペレーションやサプライチェーンを持続可能なものにするために、サステナブルな独自のオペレーションや農業サプライチェーンの構築を進めてきた。同社が培った知見やデータがTerrascopeのプラットフォームにも生かされているそうだ。
説明会にはオーラム・グループ 共同創設者兼グループ CEO サニー・ジョージ・ベルギーズ氏も参加し、「脱炭素化のための技術への投資は高額だと思う。だが、水やエネルギーを節約し、生ゴミを出さないようにすれば多くの資金を節約し、長期的には私たちの家族にとってより良い地球を生きることができる。我々にとって、『惑星B』は存在しない。そのため、地球を飢えさせることなく全人類を養う必要があるが、食品業界を助けるためには、あらゆる技術を駆使しなければならない」とGHG削減に向けた取り組みの重要性を訴えた。
企業の脱炭素化推進に向けて三菱商事ら3社とパートナーシップ
Terrascopeが調査会社のVerdantixと共同で実施した調査によれば、日本企業の85%が排出量削減の目標を掲げている。だが、科学的根拠に基づいてGHGの排出量目標を立てるグローバルイニシアチブのSBTi(Science Based Targets initiative)の認証を受けているものは、そのうちの30%に過ぎないという。しかし、ハリー氏は日本市場への期待を寄せる。
「日本市場をリサーチしてわかったのは、スコープ3の認知度が高く、真剣に達成しようという意思のある企業が多いということだ。多国籍企業が多く集まる日本だからこそ、ネットゼロ達成に向けたグローバルインパクトに貢献できると考える。さまざまな業界、そして当社にとっても、問題解決のために協力し合うチャンスがある」(ハリー氏)
他方で、中長期的に事業モデルを低炭素化するには個社の努力だけでなく、サプライチェーンでの協力や業界を超えた連携が必要になってくる。
Terrascopeは日本進出に伴って、グローバル市場の脱炭素化に対するニーズを発掘し、包括的な脱炭素化サービスを提供することを目的に、今回、三菱商事、みずほ銀行、日本テトラパックと戦略的パートナーシップを締結した。説明会ではパートナーシップを締結した3社も登壇しメッセージを発した。
三菱商事 執行役員 食料本部長の小林秀司氏は、「中期経営戦略2024のカーボンマネジメント施策における重要な取り組みの1つが今回のパートナーシップだ。Terrascopeの脱炭素化ソリューションと、日本における当社のインテリジェンスや幅広いネットワークを掛け合わせることで、日本企業の脱炭素化の取り組みを支援したい」と述べた。
みずほ銀行 サステナブルビジネス部長 執行理事の角田真一氏は、「今回のパートナーシップは、日本企業が前例のない気候変動問題に直面する中で、同じビジョンを共有することを意図したものだ。脱炭素化が難しいのは、経済成長を同時に達成しなければならないことにある。アジア・パシフィック地域における当社の顧客ネットワークと、Terrascopeのソリューションを掛け合わせることにより、持続可能な世界を実現するためのファイナンス機会を提供したい」と意気込んだ。
日本テトラパック 代表取締役社長のアレハンドロ・カバル氏は、「当社は、日本企業が持続可能なイノベーションおよびパッケージングを採用できるようTerrascopeとともに支援を行っていく。パートナーシップにより、サプライチェーンのGHG排出に関する高度なインテリジェンスを提供し、持続可能なパッケージングソリューションの導入を加速させる」と語った。