北海道大学(北大)は6月14日、グリーンランドの氷河から流出する河川の流量を測定するため、従来の測定装置の1/10ほどの価格で、なおかつ冷水中に設置する必要のない音響センサを使った測定方法を新たに実施したところ、河川の流量を音の大きさによって精度良く測定できることが明らかになったと発表した。
同成果は、北大 北極域研究センターのエヴゲニ・ポドリスキ准教授、北大大学院 環境科学院の今津拓郎大学院生、北大 低温科学研究所の杉山慎教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、地球科学に関する全般を扱う学術誌「Geophysical Research Letters」に掲載された。
グリーンランドでは、地球温暖化によって氷河氷床の融解が進んでいる。融け水は氷河から川として流れ出し、海水準上昇の原因となることに加え、海や陸の環境にも影響を与える。実際、近年ではその水量が増して、洪水が発生する例も報告されている。このことから、洪水災害を防ぐためには、氷河の融解を把握し、氷河から流出する河川の流量を測定することが重要となっている。
そうした中で研究チームは2017年から、グリーンランドのカナック地域で氷河の河川流量の測定を実施してきた。しかし、北極の厳しい環境での測定作業は容易ではなく、高価な測定装置を流されないように川の中に固定するなど、測定するためには冷水中での過酷な作業を伴うという。そこで、もっと安価な装置で、なおかつ安全で信頼性の高い測定を、長期間実施するための手法が求められていたとする。
今回の研究では、北大が2012年から氷河や海洋に関する研究の拠点とするグリーンランド北西部カナック村の近くで、カナック氷河から流れ出す河川の観測を実施。2022年7月から8月にかけて、川の中に水位センサを設置し、幾度も川に入って水深と流速を繰り返し測定することで、約3週間にわたる流量変化を取得したという。
さらに同期間中、流量観測地点から上流約2kmに位置する氷河末端付近に、音の大きさと周波数を記録する音響センサを設置したとのこと。通常は鳥の鳴き声を記録するために使われる同センサを用いて、川の水が流れる音が連続的に取得された。そして、観測によって得られた音響データが周波数ごとを解析し、各周波数のシグナルと流量データを比較した結果、刻々と増減する河川流量に合わせ、音響の強さが変化することが確認されたという。
その後の詳しい解析の結果、50Hz~375Hzの周波数帯で流量と最も高い相関関係が得られたとする。氷河は日中良く融けるため、河川流量は夕方に最大となる日周期変動を示す。音響シグナルは流量よりも50分早くピークを示していたが、それは流量測定よりも数km上流にセンサを設置したためと考えられるとしている。
研究チームは今回の研究によって、通常使われる装置の1/10程度の価格で入手できる音響センサを用いることで、装置も人も冷水中に入ることなく、正確に流量が測定できることが示されたとする。また、従来よりも安全かつ容易に、長期にわたって信頼性のあるデータを取得することができ、比較的容易に多くの氷河流出河川で測定を実施することができるとした。その結果、グリーンランドで深刻な問題となっている氷河融解の理解や、河川洪水の予測に貢献が期待されるという。また氷河や北極研究以外にも、今回の研究の応用が見込まれるとしており、世界各国で実施されている流量の測定に使われるようになれば、河川モニタリングにブレークスルーをもたらす可能性もあるとしている。