岡山大学は6月14日、「飲み込む」と「つかむ」の2種類の方法で餌を運搬する希少なアリである沖縄産の「トゲオオハリアリ」(Diacamma cf. indicum)の採餌行動が液状餌の粘度によって変化し、その粘度が低ければ飲み込んで(巣に戻って吐き出す)、高ければつかんで運ぶという状況に応じた行動変化により、効率的に多くの餌を持ち帰っていることを解明したと発表した。
同成果は、岡山大 学術研究院 環境生命自然科学学域(農)の藤岡春菜助教らの研究チームによるもの。詳細は、英国王立協会が刊行する生物学全般を扱う学術誌「Proceedings of the Royal Society B」に掲載された。
アリは、巣内の一部の働きアリだけが巣の外に出て餌集めを行う。採餌アリは、自分のためだけでなく仲間のための餌を探し、その餌を巣に持ち帰る必要がある。花蜜や甘露などの液体餌はアリにとって重要な栄養源だが、液体であるため運ぶことが難しい。そこでアリ類は、液体の餌を運ぶために2種類の運搬方法を駆使しているという。
1つは多くのアリが行う方法で、餌を飲んで胃の中に貯めて運ぶというものだ。アリは、巣に戻ると胃の中の餌を吐き戻して、ほかの働きアリや女王、幼虫に吐き戻した餌を受け渡す。もう1つは一部のアリしか行わない方法で、液体を大顎ではさんで運ぶ「バケット行動」と呼ばれるものだ。アリが持てる液体の量は極めて小さく(トゲオオハリアリの場合約0.001mL)、液体には表面張力が働く。そのため重力に負けず、液体をつかんでこぼさずに運ぶことが可能なのである。
アリ類の中でもトゲオオハリアリは、珍しく両方の運搬方法を使うことが可能な種だ。しかし、どのようにこの2種類の運搬方法を使い分けるのかは、これまでまったくわかっていなかったという。そこで研究チームは今回、トゲオオハリアリが2つの液体運搬方法をどのように使い分けているのかを解明するため、砂糖水の糖度を10%~60%に変えて行動変化を観察することにしたとする。
そして観察の結果、トゲオオハリアリは、低糖度の砂糖水の時は飲む行動を頻繁に行い、糖度が高くなるとつかむ行動を頻繁に行うことが観察されたという。
次に、トゲオオハリアリが餌の何を感知して行動を変化させるかという問題について、研究チームでは粘度が重要であることを予想したとする。そこで、10%砂糖水の粘度だけを40%砂糖水と同程度まで上昇させた餌を作り、トゲオオハリアリがどのように反応するかを観察した。そしてトゲオオハリアリは、糖度は低くても粘度が高い餌が与えられた際には、通常の10%砂糖水の時よりもつかむ行動をよく行うことが判明した。この結果から、トゲオオハリアリは餌の粘度によって、飲むのか、つかむのかという行動の選択をしていることが初めて明らかとされたのである。
さらにトゲオオハリアリは、糖度が上がり粘度が高くなるほど、砂糖水を飲むスピードが遅くなることも明らかにされた。粘度が高いほどゆっくり飲むようになることはほかの昆虫でも報告されていて、この結果から、飲むのに時間がかかる糖度が高い餌を採餌する際に、トゲオオハリアリはつかむ行動に切り替えていると考えられるとする。トゲオオハリアリは飲んでから粘度を精査しているようだが、粘度を感知する機構についてはまだ不明な点が多いことから、研究チームは今後研究を進めていきたいとしている。
加えて詳細な行動観察により、一度の採餌で1匹のアリが持ち帰る砂糖の量(カロリー)が推定された。実験室内の平坦な採餌場では、運搬中につかんだ餌を落としてしまうアリはいなかったため、運べる液体の餌の量から採餌効率性の推定が行われた。すると、餌の糖度が高い時には、つかむことによって持ち帰ることができる砂糖の量が、飲んで運べる量より格段に増えることが突き止められたとする。つまり、糖度が高い時につかむという行動の切り替えは、トゲオオハリアリの採餌の効率性を上げていたのである。
今回の研究により、トゲオオハリアリの採餌行動の効率性が、液体の採取方法と餌の質という視点から解明された。研究チームは今後、巣から餌場までの距離や天敵の存在によってアリの反応が変わるのかといったことや、持ち帰った餌を巣の中でどのように分配しているのかなどを調査していく予定とする。さらに、このつかむ行動ができるのは、アリの中でも一部の種類だけであるため、進化的起源や外部・内部形態から、なぜつかめるアリとつかめないアリがいるのか、という謎も明らかにできればと考えているとしている。