進化の過程で生物から遺伝子が消えていく要因には、機能の要不要だけでなくDNA配列などゲノム(遺伝情報)の物理化学的な特徴も絡んでいる可能性があることを、国立遺伝学研究所などが発表した。研究チームが哺乳類の遺伝子情報を解析し、明らかにした。将来的には、病気を引き起こしやすい遺伝子の探索に応用できる可能性がある。

生物進化において、生存に有利な遺伝子は広がりやすく、機能がいらなくなった遺伝子は消えやすいとされる。東京都医学総合研究所の原雄一郎主席研究員(ゲノム科学)と遺伝研の工樂樹洋教授は、理化学研究所で分子進化学を専門としてゲノム解読などに取り組む中、「遺伝子の消えやすさにゲノムの物理化学的特徴も影響するのではないか」と研究を発案。欧米のゲノム情報データベースにある遺伝子の中から消えやすい遺伝子を探し、その特徴を調べることにした。

研究では哺乳類を対象とし、ゲノム解読の完全度が高い114種の遺伝子情報をデータベースから取得した。取得した2万以上の遺伝子情報について、進化の過程で各動物が祖先からどのように分かれたかを示す系統樹上で、各遺伝子の有無を種ごとに確認し、ヒトでは残っているが、2系統以上で失われていた遺伝子を「消えやすい遺伝子」とした。

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    哺乳類を中心としたChitinase3-like2遺伝子の分子系統樹。哺乳類の祖先から遺伝子が受け継がれているが、リス類や食肉類など5系統で遺伝子が独立に失われていた(原雄一郎・東京都医学総合研究所主席研究員提供)

この「消えない遺伝子」と「消えやすい遺伝子」についてヒトで比較すると、「消えやすい遺伝子」では、遺伝子を読み取って作られるタンパク質を構成するアミノ酸が変わってしまう「非同義置換」などDNAの塩基置換をより多く起こしていた。

「消えやすい遺伝子」では、DNAがもつ4つの塩基のうちグアニンと(G)シトシン(C)の多さを示すGC含量が大きかった。遺伝子が周辺のゲノム領域に密に存在するという特徴も明らかになった。遺伝情報が物理化学的に読み取りにくい状態だったほか、遺伝子を発現する組織が限られていることも多いという。

こうした特徴により、遺伝子の機能の重要性が結果的に損なわれている可能性があるとしている。

「消えやすい遺伝子」の特徴は、哺乳類だけでなく鳥や両生類、爬虫類、魚類まで脊椎動物に広く見られ、4億5千万年以前の顎を持つ脊椎動物の祖先に遡ると考えられる。

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    「消えやすい遺伝子」の特徴まとめ(原雄一郎・都医学総合研究所主席研究員提供)

原研究員によると「消えやすい遺伝子」は、ヒト染色体上で祖先の脊椎動物が持っていたとされる染色体と相同な領域に多く見られた。「遺伝子進化において、ゲノムの物理化学的なかかわりが無脊椎動物や菌類、植物などでもみられるかを今後は検証するとともに、病気を引き起こしやすい遺伝子の探索など医療への応用に今回の知見を活かせないかも模索したい」としている。

研究は、国際科学雑誌「イーライフ」に5月25日掲載された。

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