東京大学(東大)は6月12日、3種類の性別を持つ緑藻「プレオドリナ・スターリー」(以下「P・スターリー」)の全ゲノム解読を実施し、その性別が祖先種の性染色体を構成する性決定領域(SDR)の遺伝子などの大規模な進化の末に誕生したことを明らかにしたと発表した。
同成果は、東大大学院 理学系研究科の高橋昂平大学院生(現・特任研究員)、同・東山哲也教授、同・野崎久義客員共同研究員らの研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の生物学を扱うオープンアクセスジャーナル「Communications Biology」に掲載された。
生物は種によって稀に、無脊椎動物のセンチュウやパパイヤ科の植物(二倍体生物)のように、1つの種の中にメス、オス、バイセクシュアル(両性型)の3種類の性別を有する「トリオシー種」が存在している。同種はこれまで、雌雄異体種と雌雄同体種の転換進化の中間的な不安定なものと解釈されてきた。しかし、同種は性決定の仕組みが複雑な二倍体の生物だけで知られており、祖先種の性染色体を構成するメスまたはオスを決定づける遺伝子の進化と同種の出現については未解明だったという。
緑藻ボルボックス系列の多細胞性のグループで初めて、性決定遺伝子MIDのホモログ「OTOKOGI」が同定されたP・スターリーは、神奈川県相模川水系から採集され、雌雄異株種とされていた。しかし、その後の研究チームによる同水系での継続的なフィールド調査により、P・スターリーはトリオシー種であることが確認された。
ボルボックス系列は一倍体生物であり、1個の性染色体でメスまたはオスが決まるシンプルな性決定システムを持つ。また、活発な分子遺伝学的・ゲノム生物学的研究が実施されており、さまざまな性関連遺伝子と性染色体上の両性で異なるSDRも解明されている。つまり、P・スターリーの3種類の性別の全ゲノム情報を解明して比較すれば、トリオシー種における進化の分子遺伝学的基盤を明らかにできる可能性があるという。そこで研究チームは今回、国立環境研究所と共同研究を実施し、P・スターリーの3種類の性別のそれぞれの新規全ゲノム情報を構築し、比較解析を実施したという。
この解析の結果、オスでは約18万5000塩基対、メスでは約13万7000塩基対のSDRを含むコンティグが同定された。また、バイセクシュアルではオスと配列がほぼ同一のSDRを含むコンティグが同定され、先行研究の交雑実験により推測された結果が支持されたとする。
バイセクシュアルとオスが持つオスSDRの中で、OTOKOGIは3つのホモログ(うち2つは偽遺伝子)となって存在していた。また、メスが持つメスSDRには、通常メスSDR特異的遺伝子「FUS1」が存在せず、常染色体領域と考えられる別のコンティグに存在していた。つまり、3個のすべての性別がFUS1を保有していたのである。これらにより、P・スターリーが祖先種の性染色体を構成するSDRの遺伝子の大規模な再編成の結果として誕生したことが解明された。