米国の宇宙企業ヴァージン・ギャラクティックは2023年5月26日、サブオービタル宇宙船「スペースシップツー」の2号機「VSSユニティ」による、約2年ぶりとなる宇宙への飛行試験に成功した。

VSSユニティと発射に使う母機「VMSイヴ」は、2021年7月に飛行試験を行ったのち、問題が見つかり、改修が行われていた。

今回の成功を受け、同社では6月下旬にも、初の商業飛行を行い、運航を開始するとしている。

  • VSSユニティによる宇宙飛行の試験ミッション「ユニティ25」の様子

    VSSユニティによる宇宙飛行の試験ミッション「ユニティ25」の様子 (C) Virgin Galactic

スペースシップツー、2年ぶりの宇宙飛行

VSSユニティを積んだVMSイヴは、日本時間5月26日0時15分(米山岳部夏時間25日9時15分)、ニュー・メキシコ州にあるスペースポート・アメリカの滑走路から離陸した。

VMSイヴは順調に飛行し、離陸から約1時間後の1時23分、高度4万4500ftでVSSユニティを分離した。VSSユニティはハイブリッド・ロケット・エンジンに点火し、大空を駆け上がっていった。

ヴァージン・ギャラクティックによると、VSSユニティは最高高度87.2kmに到達し、最高速度はマッハ2.94に達したという。

今回のミッションは「ユニティ25」と呼ばれ、コマンダー(指揮官)は同社のマイク・マスッチ氏が務め、CJ・スターカウ氏がパイロットを務めた。また、ミッション・スペシャリストとして、同社のジャミラ・ギルバート氏、クリストファー・ヒューイ氏、ルーク・メイズ氏、ベス・モーゼス氏の4人も搭乗した。

スターカウ氏は今回が7回目の宇宙飛行(スペースシャトルで4回、スペースシップツーで3回)で、マスッチ氏とモーゼス氏は3回目、ギルバート氏、ヒューイ氏、メイズ氏は初の宇宙飛行だった。

  • 無重量環境になった船内の様子

    無重量環境になった船内の様子 (C) Virgin Galactic

ユニティ25は、2021年7月の「ユニティ22」ミッション以来、スペースシップツーにとって約2年ぶりの宇宙飛行となった。ユニティ22では飛行中に規則違反があったほか、飛行後に機体に問題が見つかったことで、飛行停止の状態が続いていた。

ユニティ25はまた、スペースシップツーの商業運航に向けた最後の試験飛行にも位置づけられていた。今回の成功を受け、早ければ6月下旬にも、「ギャラクティック01 (Galactic 01)」と呼ばれる、初の商業飛行を行うとしている。

ギャラクティック01は、イタリア空軍が全席を購入しており、研究飛行として行われる。イタリア空軍によると、飛行中の環境が人体に与える影響や、微小重力環境での物質の実験などを行うとしている。

また、ヴァージン・ギャラクティックはすでに、一般向けのチケットの販売も行っており、その購入者についても順次、飛行できるようになるという。チケットは現在、1人あたりの約45万ドルで販売されている。

今回のユニティ25ミッションの成功を受け、同社のマイケル・コルグラジアCEOは「ユニティ25ミッションは、ヴァージン・ギャラクティックの全員にとって素晴らしい成果です。着陸時の感動的な乗組員の純粋な喜びを目の当たりにし、私たちがお客様のために構築してきたユニークな宇宙飛行体験に、大きな自信を持っています。私たちはこれから、飛行後の分析と、6月下旬に予定している初の商業飛行ミッション「ギャラクティック01」の準備を始めます」と語っている。

ヴァージン・ギャラクティックとは?

ヴァージン・ギャラクティック(Virgin Galactic)は、実業家のリチャード・ブランソン氏らが立ち上げた米国企業で、自社開発の宇宙船による、サブオービタル宇宙旅行の実現を目指している。

サブオービタル飛行とは、宇宙の入り口とされる高度80~100kmまで上昇したのち、すぐに降下して帰ってくるような宇宙飛行のことである。地球の軌道に乗る宇宙飛行とは異なり、宇宙空間にいられるのはわずか数分間だが、窓から青い地球や黒い宇宙空間を眺めることができ、船内は微小重力(いわゆる無重力)状態になるため、宇宙にいる感覚を味わうことができる。

また、宇宙旅行だけでなく、微小重力環境を生かした実験や、天体観測などの需要が見込まれている。

ヴァージンが開発している「スペースシップツー(SpaceShipTwo)」は、空中発射型の宇宙船で、「ホワイトナイトツー(WhiteKnightTwo)」という飛行機で上空まで運ばれたのち、分離され、ハイブリッド・ロケット・エンジンで宇宙へ飛行する。国際航空連盟(FAI)が宇宙と定める高度100km以上には到達できないものの、米国宇宙軍や米国連邦航空局(FAA)、米国航空宇宙局(NASA)が定める高度80km以上には到達できる。

スペースシップツーはこれまでに「VSSエンタープライズ」と「VSSユニティ」の2機が製造された。同機には2人の乗員と最大4人の乗客を乗せることができる。VSSエンタープライズは2014年に墜落事故を起こし失われたものの、VSSユニティは現在も現役で運用されている。

ホワイトナイトツーは「VMSイヴ(Eve)」の1機のみが製造され、運用されている。

  • ヴァージン・ギャラクティックが運用する宇宙船「スペースシップツー」

    ヴァージン・ギャラクティックが運用する宇宙船「スペースシップツー」と、空中発射母機「ホワイトナイトツー」 (C) Virgin Galactic

VSSユニティは2018年に宇宙への飛行試験に初めて成功し、2019年にも成功した。2021年には創業者のブランソン氏らをはじめ6人を乗せて飛行し、実際の宇宙旅行と同じ作業や飛行手順を確認するとともに、安全性や快適性をアピールした。

ただ、このブランソン氏らの飛行後、米国連邦航空局(FAA)の調査により、VSSユニティが飛行中、あらかじめ設定された飛行経路から外れたことが明らかになり、またパイロットがそれを認識していたにもかかわらず飛行を続けたことも問題視された。

さらに、VMSイヴの、スペースシップツーの取り付け部(パイロン)の強度にも問題が見つかったほか、VSSユニティも搭載機器の品質問題が明らかになり、改修が行われるなど、約2年にわたって宇宙飛行が止まることとなった。

ヴァージン・ギャラクティックはまた、次世代の宇宙船「スペースシップIII」の1号機「VSSイマジン(Imagine)」、2号機「VSSインスパイア(Inspire)」の開発、製造も進めている。

さらに、「デルタ級(Delta class)」という新型宇宙船の開発も進めている。デルタ級は、最大6人の乗客を乗せることができ、メンテナンス性などを向上させ毎週1回の飛行が可能になるなど、より商業運航に適した宇宙船になるという。

デルタ級宇宙船の生産は今年から始まる予定で、2025年後半から実験装置などを搭載した飛行を開始し、2026年には乗客を乗せた商業運航を開始する予定だとしている。

  • 開発中のスペースシップIII

    開発中のスペースシップIII (C) Virgin Galactic

サブオービタル宇宙飛行をめぐっては、Amazon創業者として知られるジェフ・ベゾス氏率いるブルー・オリジンも、「ニュー・シェパード」という宇宙船を運用している。すでに商業運航も始まっているが、昨年9月に無人での打ち上げが失敗したことで、原因究明と改修のため、運航が止まっている。

参考文献

Virgin Galactic Completes Successful Spaceflight | Virgin Galactic