国立がん研究センター(国がん)、愛知県がんセンター、理化学研究所、東京大学、滋賀医科大学、東京医科歯科大学、日本赤十字社医療センター、神奈川県立がんセンター、秋田大学、佐賀大学、名古屋大学、信州大学、福島県立医科大学、群馬大学の14者は6月9日、米国国立がん研究所が主導する国際共同研究に参画し、日本人を含むアジア人の肺腺がん患者と肺がんに罹患していない人についてゲノムワイド関連解析を実施した結果、日本人を含めたアジア人における肺腺がんリスクを決める28個の遺伝子(既知含む)の個人差(体質を決める遺伝子多型)を同定したことを発表した。

  • 同定された28個の遺伝子の個人差。

    同定された28個の遺伝子の個人差。(出所:共同プレスリリースPDF)

また、遺伝子多型の個数の違いから、アジア人の肺腺がん発がんリスクは欧米人と異なること、同時にアジア人肺腺がん患者の非喫煙者における肺腺がんリスクは、遺伝子の個人差による影響が大きいことも解明された。

同成果は、国がん研究所 ゲノム生物学研究分野の白石航也ユニット長、同・河野隆志分野長、愛知県がんセンター がん予防研究分野の松尾恵太郎分野長らを含む、220名以上の世界中の研究者が参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。

肺がんはがん死因の第1位であり、日本では年間に約7万6千人(国がん がん情報サービス「がん統計」(厚生労働省人口動態統計)より)、全世界では約180万人(世界保健機関 FactSheetsのCancerの章より)が亡くなっている。肺がんの中でも最も発症頻度が高く、増加傾向にあるのが肺腺がんだ。肺腺がんは、肺がんの危険因子である喫煙との関連が比較的弱く(相対危険度は約2倍)、約半数は非喫煙者での発症だ。喫煙以外の危険因子が特定されていないことから、罹患危険群の把握や発症予防は容易ではないため、喫煙以外の危険因子の同定とそれに基づく罹患危険度の診断法が求められている。

また、肺腺がんの発症には人種差があることも知られており、非喫煙者における発症頻度は、欧米人よりもアジア人で高いことが報告されている。そこで研究チームは今回、米国国立がん研究所が主導する国際共同研究に参画し、肺腺がんへのかかりやすさを決める遺伝子多型を網羅的に同定すると同時に、欧米人との比較を行ったという。

今回の研究では、日本人を含むアジア人の肺腺がん患者約2万例と肺がんに罹患していない人約15万例について、ゲノムワイド関連解析を実施。遺伝子多型の分布に差があるかどうかを統計的に検定した結果、アジア人における肺腺がんリスクを決める28個の遺伝子多型が同定された。これまでに知られていたTERT、TP63、ROS1など21個の遺伝子に加えて、FGF7、PIK3CB、GCLC、PDGFC、SFTPBなど7個の遺伝子に存在していることが新たに発見されたとする。

続いて、アジア人の肺腺がん患者をもとに、遺伝子多型を組み合わせ肺腺がん罹患リスクを数値化できるポリジェニックリスクスコアを算出したとのこと。その中から、ポリジェニックスコアが高いために肺腺がん罹患リスクが高いと分類された患者(今回調査されたアジア人肺腺がん患者の20%に相当)についての調査が行われた。

すると、喫煙歴の有無で肺腺がんの危険度をグラフ化したところと、非喫煙者で肺腺がんに罹患していない人と比べて、非喫煙者で2.07倍、喫煙者で1.80倍肺腺がんリスクが上昇することが見出されたという。これにより、非喫煙者における肺腺がんリスクは遺伝子の個人差による影響が大きいことが明らかになったとしている。

  • 遺伝子の個人差の組み合わせによる肺腺がんへのかかりやすさの危険度。

    遺伝子の個人差の組み合わせによる肺腺がんへのかかりやすさの危険度。(出所:共同プレスリリースPDF)

なお今回の研究では、喫煙による相対リスク(約2倍)は考慮されておらず、遺伝子の個人差による違いのみが評価された。そのため、喫煙歴の有無などの環境因子を考慮した場合、喫煙者の方が非喫煙者に比べて肺腺がんリスクは上昇するという。

今回の研究で同定された肺腺がんリスクに関わる遺伝子の個人差を用いて算出されるポリジェニックスコアから、非喫煙者における肺腺がんリスクを推定できることが突き止められた。今後は、喫煙の有無や飲酒、ストレスといったほかの環境因子などと組み合わせて肺腺がんリスクの高い群を同定し、肺がん個別化予防の手法の研究開発につなげていきたいとしている。