ダイヤモンドを使った半導体パワー回路の開発に、佐賀大学理工学部の嘉数(かすう)誠教授(半導体工学)のグループが世界で初めて成功した。これまで難しいとされてきた高速スイッチングや長時間の動作が可能なことを実証。パワー回路が実用化できれば、次世代通信規格「6G」や量子コンピューターなど最新技術への応用も期待できるという。
ダイヤモンドはシリコンなど従来、半導体に用いられてきた物質よりも高電圧に耐えられ、高速かつ高い周波数で動作でき、宇宙など放射線量が高い場所でも使える。次世代のパワー半導体としてダイヤモンド半導体の開発が盛んになっている。
ただ、炭素でできたダイヤモンドを半導体にするため、「ドーピング」と呼ばれる不純物を添加する技術と、「パッシベーション」という保護膜を張る技術が難しい。海外勢の多くが失敗する中、嘉数教授のグループはダイヤモンドに二酸化窒素を添加する技術を確立し、真空を使う独自のALD(原子層堆積)装置で酸化アルミニウムの薄い膜を張る方法も発見。安定的にダイヤモンド半導体デバイスを作ることに成功し、2022年には世界最高の出力電力(875MW/cm2)、出力電圧(3659V)を報告した。
ダイヤモンド半導体についてはパワー回路として動作させた場合、素子の劣化が早く、長時間の動作は困難との指摘があった。嘉数教授のグループは実用化を考えたパワー回路の作製に着手した。ダイヤモンドが電極の金属と付着力が弱いという性質のため、配置には困難を極めたが、ダイヤモンド半導体デバイスの電極と外部のプリント基板との間を金線ワイヤーの張力をコントロールして結線する方法を開発し、実用回路として動作させることに成功したという。これにより実用に必要なスイッチング特性や寿命を測定できるようになった。
スイッチングは半導体が電子やホールが流れることで電流を流したり(ターンオン)、電圧がかかった状態のまま遮ったり(ターンオフ)する動作のこと。スイッチング特性を高めるには電子やホールを流し始める時間と、流れている電子やホールを半導体内部から引き抜くための時間をいかに短くするかにかかっている。スイッチング特性を測定したところ、10ナノ秒(ナノ秒は10億分の1秒)、100メガヘルツと、これまでのパワー半導体より速いことが分かった。これはダイヤモンドの静電容量が小さいという性質に由来すると考えている。ダイヤモンドパワー回路のエネルギー損失が低く、効率が高いことを表しているという。
さらに、ダイヤモンドパワー回路を動かしてみたところ、190時間を超える連続動作でも劣化しないことが分かった。190時間でも劣化は見られないため、さらなる長時間動作は可能だと考えており、どこまで動かせるか挑戦していく考えだ。
ダイヤモンド半導体パワー回路のスイッチングや長時間動作の特性が実証されたことで実用化に向けた研究開発が進む見込み。佐賀大学はダイヤモンド半導体デバイスで世界最高の出力電力、出力電圧を達成した成果などにより、半導体の業界紙・電子デバイス産業新聞が選ぶ「半導体・オブ・ザ・イヤー2023」に選ばれた。嘉数教授は5月31日に都内で行われた授賞式で「産学連携で、なるべく早く実用化の軌道に乗せたい」と話した。嘉数教授によると、宇宙や次世代通信、電気自動車、高放射線量の環境下など使える場所が多いゆえに、どの分野で製品化すれば一番良いのかまだ決められていないという。
今回の一連の研究は特許を申請している。研究は日本学術振興会の科学研究費助成事業を受けて行われ、2本の論文が米国の電気電子学会の「エレクトロン デバイス レターズ」5月号と6月号に掲載された。成果は4月17日と5月25日に佐賀大学が公表した。
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