工学院大学、電力中央研(電中研)、ファインセラミックスセンター(JFCC)の3者は6月8日、全固体電池の一種である「酸化物系全固体ナトリウム電池」の劣化解明手法を新たに開発したことを共同で発表した。

  • 全体イメージ。

    全体イメージ。(出所:共同プレスリリースPDF)

同成果は、工学院大大学院 工学研究科の小野貴亮大学院生(研究当時)、同・平岡紘次大学院生、同・関志朗准教授、電中研の小林剛上席研究員、JFCCの山本和生主席研究員らの共同研究チームによるもの。なお今回の研究は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)からの委託を受け、エネルギー・環境新技術先導研究プログラム「電力貯蔵用高安全・低コスト二次電池の研究開発」として、2021年度~2022年度に実施された。詳細は、米国化学会が刊行するエネルギー変換と貯蔵に関する学際的な分野を扱う学術誌「ACS Applied Energy Materials」に掲載された。

既存のリチウムイオン電池などは、揮発性の有機液体電解質を用いているため、ケースの破損による液漏れ、そして発火の危険性という安全上の問題を抱えている。電解液を固体電解質に置き換えることで、出火の危険性を完全に払拭したのが全固体電池だ。それに加え、固体電解質にすることで、小型軽量化とエネルギー密度の向上というメリットも得られることから、研究開発が進んでいる(小型のものは一部企業からすでに発売されている)。

上述したように、全固体電池は構造的に出火する危険性は無くなるが、安全面を確かめるためにはさらなる研究が必要だという。そして、継続的に安全性を担保しながら利用していくためには、運転時の内部材料のモニタリング、継続使用に伴う劣化因子の解明・分析手法の高度化が求められているとする。

そこで研究チームは、資源制約の極めて少ない次世代蓄電池候補の1つである酸化物系全固体ナトリウム電池を2021年度より開発すると同時に、それを運転させながらμm単位で各箇所の化学的結合変化を計測できる「オペランドラマン分析」のシステムを確立したという。

  • 今回作製された無機系全固体ナトリウム電池の外観および熱安定性。

    今回作製された無機系全固体ナトリウム電池の外観および熱安定性。(出所:共同プレスリリースPDF)

  • 無機系全固体ナトリウム電池断面の顕微鏡像、およびオペランドラマン分析の観測点(マイクロメーター単位でのスポット分析が可能)。

    無機系全固体ナトリウム電池断面の顕微鏡像、およびオペランドラマン分析の観測点(マイクロメーター単位でのスポット分析が可能)。(出所:共同プレスリリースPDF)

その結果、全固体電池の連続運転(充放電)に伴う、劣化箇所・劣化要因を明らかにすると共に、劣化抑制の提案および寿命延伸に伴う実用化に一歩近づくことができたとしている。

  • 無機系全固体Na電池の正極部分における、充放電時のラマンスペクトルのその場変化。

    無機系全固体Na電池の正極部分における、充放電時のラマンスペクトルのその場変化。(出所:共同プレスリリースPDF)

今回の研究により、新規分析手法の有用性が実証されるのと同時に、全固体電池をはじめとしたリチウムイオン電池・ナトリウムイオン電池など、各種蓄電デバイスへの展開が期待されるとする。

今回の成果に対して関准教授は、「全固体電池は揮発液体成分をまったく含まない形態のため、包装材料の大幅な簡素化やスタッキング(積層化)などを可能とするなど、今後幅広く望まれていくであろう、EVや電力貯蔵などの大型蓄電用途への期待が高まる、新しい蓄電池の形態といえる。これを運転させながら、いろいろな場所をその場観察していくのは非常に難しく、まさに「動く電池」の「いろいろな箇所」をつぶさに調べられる当該技術の成立に感動した。今回は材料内部の結合状態に着目した発見を報告したが、共同研究者との綿密な連携によりその観測スケールにさらに幅を持たせて、統合的な理解につなげていきたいと考えている。また、産学連携にも直接つながる技術と期待できるため、その実用性もさらに深めていく」とコメントしている。