月桂冠と甲南大学の両者は6月7日、日本酒などの製造に用いられる麹菌が作る成分「デフェリフェリクリシン」(Dfcy)に、ヒト由来のがん細胞を死滅させる作用があることを発見し、そのメカニズムとして、プログラム細胞死の一種である「パラトーシス」を解明することに成功したと発表した。
同成果は、甲南大 フロンティアサイエンス学部の木下菜月大学院生、同・西方敬人教授、同・川内敬子准教授、月桂冠総合研究所のほか、シンガポール・Duke-NUS医科大学、京都大学、日本医科大学の研究者も参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、「Genes to Cells」に掲載された。
鉄はがん細胞の増殖に深く関係していることから、鉄と結合する一部の物質には抗がん作用があることがわかっており、麹菌が生産するペプチドであるDfcyもその1つだ。Dfcyはアミノ酸が6つ環状につながった構造をしており、米麹やそれを原料とする日本酒、酒粕、甘酒などに含まれている。また、鉄分吸収促進や抗酸化作用、尿酸値低減、抗炎症作用、美白作用、皮膚バリア機能といった機能を有する。
そこで月桂冠総合研究所は、自社開発した麹菌によるDfcyの大量生産技術を活用してDfcyの製造を行い、その抗がん作用に関するメカニズムの解明についての共同研究を甲南大などと共に行うことにしたという。
同研究ではまず、ヒト由来がん細胞をDfcyで処理することで、細胞内に多数の空胞が形成されることに関連し、がん細胞の死滅が確認された。このことから、Dfcyに抗がん作用があることが確認できたとする。
次に、Dfcyによる抗がん作用のメカニズムが詳細に検証された。すると、Dfcyは異常な小胞体の膨張を引き起こし、多数の空胞が細胞内に形成されることで、細胞死の一種であるパラトーシスを誘導していることが明らかになった。さらに、Dfcy投与によるパラトーシス細胞死は、正常な細胞ではほとんど見られず、ヒト由来のがん細胞にのみに作用することが確認されたという。
今回の研究により、日本酒、甘酒、味噌などの発酵食品に含まれるDfcyの抗がん作用とそのメカニズムが明らかにされた。研究チームは、今回解明されたがん細胞の死滅機構が、新規抗がん剤の研究開発につながる成果であるとしている。