農業・食品産業技術総合研究機構(以下、農研機構)、東日本電信電話(以下、NTT東日本)、NTTアグリテクノロジーは6月6日、データ駆動型の遠隔営農支援プロジェクトを開始すると発表し、記者会見を開いた。
このプロジェクトでは、農研機構の専門家が持つ知見と、同機構の農業データ連携基盤(WAGRI)、NTT東日本およびNTTアグリテクノロジーのICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)を活用した遠隔営農支援の知見を組み合わせて活用する。プロジェクトの最初の実証として、みらい共創ファーム秋田のタマネギ農園(秋田県 大潟村・男鹿市・由利本荘市)でタマネギの生産における遠隔営農支援を開始する。
近年は食の安定供給や農業領域を取り巻く課題として、国際的な気候変動の深刻化や価格高騰、感染症リスクなど不安定な状況が続いている。また、国内に目を向けても少子高齢化に伴う農業従事者の減少、および技術継承の担い手不足などが表層化している。原材料の上昇などを背景に食料品の価格も高騰の一途をたどり、国民生活への影響も大きい。
これらの課題に対し、農研機構、NTT東日本、NTTアグリテクノロジーの3者は2020年2月に連携協定を締結して課題解決を試みている。3者は農業分野の生産性向上や生産者の所得向上を目的として、データ駆動型の農業を地域実装を図っている。これまでにも、農業の省力化やリスク低減を実現し、地域農業の発展や食の安定供給に寄与するプロジェクトを協働で進めてきた。
3者が今回開始するプロジェクトは、秋田県大潟村のみらい共創ファーム秋田のタマネギ農園を舞台に、農研機構の専門家が遠隔からタマネギ栽培を指導し、その効果を検証するものだ。農業データの連携基盤として、気象情報や市況データなど収量予測に活用できるデータやプログラムを提供する公共的なクラウドサービス「WAGRI」を使用する。
さらに、NTT東日本とNTTアグリテクノロジーが提供する遠隔営農支援の仕組みを用い、現場の生産者と専門家が遠隔地にいながらにしてリアルタイムで現場の映像やデータを共有し情報交換できる仕組みを構築する。
農研機構のタマネギ生産SOP(Standard Operating Procedures:標準作業手順書)に即した技術的な助言を行うことで、通常の大潟村での新規就農者の収量が10アール(1000平方メートル)あたり2~3トンであるところを、同じ作付面積で4トンを安定的に生産できる状態を目指すという。
現場の生産者は、スマートグラスを装着することで自身の見ている風景を専門家に送信できる。遠隔地の専門家はその映像とWAGRIが提供するデータを確認しながら、現場に情報を提供する。この際、気になる生育状況や病害虫についての質問などをリアルタイムでやり取りできる。スマートグラスを装着することで、現場の生産者は両手を自由に使える利点がある。
現在の日本では、秋まきのタマネギと春まきのタマネギの収穫期の間である7~8月の端境期(はざかいき)には、加工業務用のタマネギの供給の多くを輸入に依存しているのが現状だ。3者はこの現状に対し、東北地方でのタマネギ生産を促すことで、国産タマネギの通年流通を目指す。
このプロジェクトでは将来的に、AI(Artificial Intelligence:人工知能)が生産者からの質問に自動で応答するような仕組みも実装する予定だという。専門家とAIが相互にノウハウを補完しながら効率的に生産者を支援するとしている。
NTT東日本の代表取締役社長を務める澁谷直樹氏は「私たちは今回のプロジェクトにおいて、日本の農業の発展を通信とデジタル技術で支えたい。当社は無線を含めたネットワークやエッジコンピューティングを提供する予定だ。現在、当社は地域の未来を支えるソーシャルイノベーション企業を目標に各地域の価値創造に取り組んでおり、地域密着企業として社会的要請に対応するための一翼を担いたい」と、期待を述べていた。
NTT東日本は今回のプロジェクトで、地域エッジのクラウドサービスである「REIWA(Regional Edge with Interconnected Wide-Area Network)プロジェクト」のノウハウを提供する。地域内で生まれたトラフィックを地域で守りながら、要望に応じた通信サービスを展開する予定とのことだ。