台湾を取り巻く情勢では依然として緊張が続いている。中国は台湾周辺での軍事的威嚇を繰り返し、台湾はそれに屈しない姿勢を強調し、米国は有事の際に軍事的に関与する可能性を否定せず、当事者間で明るい動きは全く見られない。

今年に入っては2月、中国本土に近い台湾が実効支配する馬祖列島で中国船によって海底インターネットケーブル2本が遮断される事態が発生したことに危機感を強めた台湾政府は最近、有事への備えとしてインターネットや電話回線の遮断を回避できるよう予防策を来年末までに徹底する方針を発表した。

また、米国のヘインズ国家情報長官は5月、米議会上院軍事委員会の公聴会の席で、中国による台湾侵攻によって半導体生産が停止すれば世界経済は壊滅的な影響を受け、年間の被害額が6000億ドルから1兆ドルあまりになると強い危機感を示した。

台湾の半導体大手TSMCが熊本県に半導体工場を作ったり、トヨタやソニーなど日本を代表する企業の出資によって創設された新会社ラピダスが北海道千歳市に先端半導体工場を作ったり、韓国大手サムソン電子が横浜に半導体開発拠点を作るなどは、台湾リスクを回避するための対策である。そういった緊張の長期化により、台湾に進出する企業の間でも不安の声が拡がっている。

たとえば、昨年秋に台湾に進出する米国企業で形成される団体「台湾米国商工会議所」が実施した調査結果によると、台湾情勢を取り巻く緊張によって経済活動に著しい支障が出ていると回答した企業が全体の33%に達し、一昨年8月に行われた同じ調査(17%)からほぼ倍増した。また、台湾有事を巡るリスクに柔軟に対応するため、BCP(事業継続計画)を修正した、または修正する予定だと回答した企業は全体の47%に達し、米国企業の間で心配の声が拡がっていることが浮き彫りとなった。

そして、日本企業の間でも同じように心配の声が上がっている。台湾には2万人あまりの日本人がいるが、台湾に駐在員を送る企業、台湾にサプライチェーンを強く依存する企業は多い。これまでも1958年、1996年から1997年にかけて台湾海峡を巡る緊張が高まったことはあったが、近年の緊張は依然とはまるで状況が異なる。

以前と今日の中国の力はまるで異なり、緊張は間違いなくこれまでで最も高い。日本企業も最近その現実を徐々に受け止め始め、台湾有事が発生すれば自社のビジネス活動にどれほど影響が出るか、如何に被害を最小化できるかといったことを検討し始めている。しかも、有事となれば中国軍が台湾周辺の制海権と制空権を奪取してくることから、台湾本土からの退避は即できなくなり、半導体生産に代表される台湾経済の動きもストップする可能性が高く、台湾進出企業は即難題に直面することになる。そういったシナリオを理解している企業関係者の間では、どの程度緊張が高まったら社員を日本や第三国に退避させるかといった危機管理対策を強化する動きが拡がっている。

今日、台湾から撤退する日本企業はなく、むしろコロナ禍が終わって台湾進出を強化する企業もある。しかし、その中でも台湾有事を巡る懸念が日本企業の間でも拡がっていることは事実であり、今後の動向次第では台湾を回避する動きが顕著になってくるシナリオも想定されよう。