分野や業種が異なる企業でも簡単に競合になる得る現代において、競争優位性の重要性は高まる一方だ。一橋ビジネススクール 国際企業戦略専攻 特任教授の楠木建氏は、競争優位性を考える上で、「戦略ストーリーのクリティカル・コアが重要」だと言う。
5月15日~26日に開催された「TECH+ Business Conference 2023 ミライへ紡ぐ変革」の「Day 9 物流DX」に同氏が登壇。「戦略ストーリーのクリティカル・コア:究極の競争優位を考える」と題し、講演を行った。
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在庫回転率を重視しない卸業、トラスコ中山のストーリーとは
競争戦略を専門とする楠木氏は、競争戦略の本質を「違いをつくる」ことだと語る。
しかし、「戦略のプレゼンとなると、”箇条書き大作戦”になっている」(楠木氏)傾向が強い。特に顕著なのがDXの分野で、多くの企業はビジネスモデルとして矢印でつながる取引見取り図を描くのに終始し、因果関係に立ち入っていないと同氏は指摘する。本来は、戦略の「アクションリスト」化ではなく、なぜ儲かるのか、自社だけができることは何かといったストーリーが必要なのだ。
「競合他社に対する違いをつくり、ゴールである長期利益に向けてつなげる。当たり前の話ですが、これがなかなか難しいことなのです」(楠木氏)
楠木氏はここで、戦略ストーリーを描いている企業として間接資材を扱うトラスコ中山を紹介した。
トラスコ中山は、デジタルの仕組みを取り入れた倉庫を続けて建てている。その理由は、同社が「在庫回転率は見ていないから」だという。卸業は在庫回転率を上げていくことが良しとされる中、「在庫回転率はこちらの都合であって、お客さまの価値とは関係ない。お客さまの価値につながるのは在庫出荷率であり、これを改善するのが自社の戦略」だという同社の考えを説明する。
顧客のニーズは「早く持ってくること」にある。そのために倉庫が必要というわけだ。そこで同社は在庫出荷率を重視し、物流も自社で持っている。このような在庫能力から、あのアマゾンもトラスコ中山の顧客だそうだ。
「トラスコ中山の戦略ストーリーは、単に卸業をやるのではなく、この分野で物流のハブを構築することなのです」(楠木氏)