大阪大学(阪大)は5月31日、ナノ粒子の一種である「ナノシリカ」をより安全に設計するための人工知能(AI)を用いた新しい手法を確立したことを発表した。
同成果は、阪大 蛋白質研究所 計算生物学研究室の水口賢司教授(医薬基盤・健康・栄養研究所(NIBIOHN) AI健康・医薬研究センター センター長兼任)、同・橋本浩介准教授、同・渡邉怜子助教(NIBIOHN AI健康・医薬研究センター 客員研究員兼任)、同・大学大学院 薬学研究科 毒性学分野の堤康央教授、同・東阪和馬准教授、同・芳賀優弥助教、同・大学 薬学研究科のMartin大学院生(NIBIOHN AI健康・医薬研究センター 連携大学院生)らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国化学会が刊行するさまざまな分野の境界におけるナノサイエンスとナノテクノロジーに関する包括的な内容を扱う学術誌「ACS Nano」に掲載された。
ナノ粒子は人工的に作製された直径100nm以下のサイズの微粒子のことで、化粧品、塗料、繊維、電子機器などにおいて幅広く利用されている。これまでのところ、ナノ粒子がヒトの健康に影響を及ぼすとする報告はされていないものの、従来の材料とは異なる独特の形状や性質ゆえ、安全性を懸念する指摘もある。
そのため、人体に直接接する化粧品に対しては、欧州委員会の消費者安全科学委員会や、アメリカ食品医薬品局ではガイドラインを制定し、その安全性の評価を実施している。しかし、生物学的に、ナノ粒子が細胞などに与える潜在的な影響を予測することは難しいのが現状だとする。そこで研究チームは今回、ナノシリカをより安全に設計するためのAIを用いた新しい手法を確立したという。
具体的には、100以上の科学論文から慎重に情報が収集され、先進的なAIアルゴリズム「CatBoost」を活用することで、文献データマイニングと機械学習を組み合わせ、ナノシリカの安全性を評価するための汎用的なインシリコ予測モデルが確立された。
今回の研究では、濃度、血清の有無、大きさ、暴露時間、表面特性など、ナノシリカの安全性に影響を与えるいくつかの重要な要因が解明された。その結果、ナノシリカの表面を加工し、低濃度で使用することで、安全性が大幅に向上することが確認されたとする。
特に重要なのは、ナノシリカの安全性を評価する際に、ナノシリカ-コロナ複合体(新型コロナウイルスとはまったくの別物)が果たす役割が明らかにしたことだとする。ナノシリカは、血液中などでタンパク質と接触すると、その表面にコロナと呼ばれるタンパク質の層を形成するという。今回の研究でナノシリカ-コロナ複合体の挙動を理解することは、ナノシリカの安全性の正確な予測に不可欠であることが判明したとしている。
また、安全性予測モデル構築における外部検証の重要性も示されたとのこと。研究で一般的に行われている内部検証では、必ずしも信頼性の高い予測値が得られるとは限らないが、外部検証では独立したデータセットを使って予測結果が検証される。この厳格なアプローチにより、モデルの正確性と汎用性が保証され、研究結果がより確実なものとなっているとする。
研究チームでは、今回の研究で実施された文献データマイニングと機械学習の組み合わせによる安全性予測を、化粧品、塗料、繊維、電子機器などに加え、医薬品に利用されるリポソームなどのほかのナノ粒子にも応用し、適切な属性(設計条件)を抽出することで、より安全なナノ粒子材料の開発が可能となると考えられるため、ナノ粒子の安全性向上に貢献することが期待されるとした。