進行がんの余命が週や月単位の患者の場合、自宅療養の方が緩和ケア病棟に入院するよりも長く生存していることが、筑波大学などの調べで分かった。医療関与度が下がる自宅療養では生存期間が縮まると懸念する声が多いが、ストレスの耐性度などからその可能性は低いことが説明できるという。

筑波大学医学医療系の浜野淳講師(緩和医療学・総合診療学)は2017年1月~12月に、緩和ケア病棟23施設、在宅利用を提供する45診療所の計68の医療機関を対象にがん患者の観察研究を行った。イギリスで開発された余命をはかる尺度であるパイプス・エー(PiPS-A)を基準にして余命数日単位の群、数週間単位の群、月単位の群に分けて、自宅群と緩和ケア病棟群の生存日数を比べた。

対象患者の数は、数日単位908人(病棟722人、在宅186人)、数週間単位1428人(病棟893人、在宅535人)、月単位509人(病棟251人、在宅258人)。調査にあたり、在宅の患者が急変して緩和ケア病棟に入院することや、逆に、病棟から在宅へ退院することもあり得るため、「もしそのまま家もしくは病棟にいたらどのくらい生きたか」という解析を同時に行った。

その結果、平均生存期間は、余命が月単位の場合在宅では65日間、病棟では32日間と倍の開きが出た。数週間単位の群でも、在宅は32日間、病棟では22日間と10日の差が見られた。一方で数日単位の群は在宅で10日間、病棟では9日間と有意な差が見られなかった。これは、余命数日ではすでに呼吸苦や食べられないなど、生理的に生存が難しくなっているためと考えられる。

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    余命が月単位の患者の生存曲線。縦軸が生存率、横軸が生存日数。在宅の患者の方が緩和ケア病棟の患者より平均して33日間長く生存した(筑波大学提供)

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    余命が週単位の患者の生存曲線。縦軸が生存率、横軸が生存日数。在宅の患者の方が緩和ケア病棟の患者より平均して10日間長く生存した(筑波大学提供)

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    余命が日単位の患者の生存曲線。縦軸が生存率、横軸が生存日数。在宅と緩和ケア病棟では生存日数に違いがないことがわかる(筑波大学提供)

緩和ケア病棟では、苦痛をとるために様々なアプローチがとられる。痛みのコントロールのためPCAポンプと呼ばれる留置型の薬液投与の機器を使用したり、せん妄を抑える薬を投与したり、お腹や胸に貯まった水を抜いたりといった医療処置ができる。在宅医療では、家族などの見守りのもと、貼るタイプや液体タイプの痛み止めなどを使った介入、睡眠薬や抗うつ薬の投薬、酸素ボンベの吸入といった処置にとどまることが多い。

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    終末期の過ごし方は患者本人の満足だけでなく、患者家族の医療への信頼や、自分が「もしも」のときにどう過ごしたいかということを考えることにもつながる

浜野講師は大学勤務の傍ら、茨城県内の医療機関で終末期の患者を診察している。その中で、主に患者家族から「家に帰ると医者がいつも診られず、すぐ亡くなるのではないか」という心配の声が多いため、療養場所によって生存期間に変化が出るのかを調べた。

今回の結果を基に「健康な人でも、1人でホテルに泊まるのと合宿するのは受けるストレスが違う。同じように、入院環境ではストレスを感じて余命が短くなるのではないか。自宅に帰ると普段通りのように農作業をしたり、好きなものを食べたりできる」と話す。ただ、自宅療養がマンパワーの問題などで向かない患者もいるため、その人に適した最期の場所を選ぶことが望ましいという。

また、この研究の課題について、がんの種類によって経過が全く異なり、体の自由度も異なるうえ、終末期に受けられたケアの質や薬剤投与の頻度も個人によって大きな開きがある。このため、余命の長短が一概に場所によってだけでは決められず、ほかの因子が関与する可能性が否定できないことを注意点として挙げている。

研究は日本学術振興会の科学研究費助成事業、日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団の助成を受けて行われた。成果は米科学誌「プロスワン」4月13日号に掲載され、筑波大学が4月19日に発表した。