順天堂大学、理化学研究所(理研)、日本医療研究開発機構の3者は5月30日、パーキンソン病(PD)などの患者の血清から、α-シヌクレイン(α-SN)タンパク質が凝集する際の種となる、病的な構造を持つ凝集体「α-SNシード」を検出することに成功したと共同で発表した。
同成果は、順天堂大大学院 医学研究科神経学の服部信孝教授(理研 脳神経科学研究センター 神経変性疾患連携研究チーム チームリーダー兼任)、同・波田野琢先任准教授、同・奥住文美准教授、長崎大学大学院 医歯薬学総合研究科 組織細胞生物学分野の松本弦博士らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の生物学や疾病なども含めた医薬品に関する全般を扱う学術誌「Nature Medicine」に掲載された。
PDやレビー小体型認知症(DLB)、パーキンソン症候群である多系統萎縮症(MSA)は、凝集しやすい異常構造型α-SNが脳に蓄積し神経細胞が脱落する疾患で、「α-シヌクレイノパチー」と総称される。現在これらに対する治療法は対症療法のみであり、根治療法の開発が求められている。なお同疾患では、脳だけでなく全身の末梢神経にもα-SNが蓄積することから、研究チームは今回、「全身への病気の広がりに血液を介した経路が関与している可能性がある」という仮説を立てて研究を進めたという。
そして、患者の血清から免疫沈降(IP)法を用いてα-SNシードを濃縮し、凝集しやすい異常構造タンパク質をRT-QuIC法で増幅することで、極微量のα-SNシードを容易に検出できるIP/RT-QuIC法の開発に成功したとする。さらに同手法を用いて、α-シヌクレイノパチーの診断や鑑別、さらには病態解明のため、患者の大規模なスクリーニングを実施したという。
同スクリーニングには、α-シヌクレイノパチー患者270名、非α-シヌクレイノパチー患者55名、神経変性疾患ではない健常者128名、parkin遺伝子に変異のある家族性PD(PARK2)患者17名、前駆期α-シヌクレイノパチーであるレム睡眠行動異常症(RBD)患者9名が参加した。これらの患者の血清サンプルに対してIP/RT-QuIC法を用いた結果、非α-シヌクレイノパチー全体では9%、対照では8.5%、PARK2患者では0%だったのに対し、PDで95%、DLBで90%、MSAで64%、またRBDでは44%の患者からα-SNシードが検出され、有意に高い結果となったとする。
また、病理で診断が確定した症例についてはDLBで100%、MSAで33%、対照では0%の確率で検出された。海外の大学との共同研究では、PD20名、対照20名、MSA15名の血清サンプルでIP/RT-QuIC法を実施し、α-SNシードの検出率はPDで75%、対照で5.0%、およびMSAで53%となった。これらの結果から研究チームは、同手法であれば、血清からα-シヌクレイノパチーの診断を行えるとしている。