NTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)と奈良県は5月25日、行政主導の取り組みとして県内2カ所の医療機関においてスマートフォンを活用し、医療現場のDX(デジタルトランスフォーメーション)を目指す実証実験を2023年1月~3月に実施したとして、その結果を報告した。
ドコモビジネスが挑む医療現場のDXとは
同社は2022年からエヌ・ティ・ティ・コムウェア(NTTコムウェア)と共に新たにドコモグループとなり、法人向け事業ブランドとしてドコモビジネスを展開している。今回の実証実験は、ドコモビジネスブランドとして手掛けた取り組みとのことだ。
さて、近年は働き方改革関連法により、多くの職種で長時間労働が規制されつつある。2024年度からは医師らにも時間外労働の上限規制が適用されるため、医療機関での業務効率化やDXが喫緊の課題となっている。また、2023年3月に公衆PHSサービスが終了し、後継のコミュニケーションツールを模索する医療機関も少なくない。
こうした課題に対し、同社はさまざまなソリューションを組み合わせて医療現場のDX実現を支援する。例としては、医療従事者の業務効率化を目的としたICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)を用いた業務のデジタルシフト支援や、縮小するPHSサービスを代替するスマートフォンサービスの展開などがある。
同社は特にドコモグループとしても強みを持つ、スマートフォンサービスを軸としたサービス展開を狙う。5G(第5世代移動通信システム)やIoT(Internet of Things)を活用した遠隔診療支援なども展開している。
医療現場のDXを進める上では、スマートフォンの導入が最初の一歩として有効だという。スマートフォンは大掛かりなシステム開発などが不要であり、医療従事者にもなじみのあるデバイスなので導入の障壁が低い。さらに、PHS端末と比較して、AI(Artificial Intelligence:人工知能)やクラウドサービスなどとの組み合わせによる活用用途の拡張性が高い利点も持つ。
同社はスマートフォンを用いて、内線通話だけでなくオンライン診療やチャット、位置情報の把握、勤怠管理、モバイル電子カルテ、ナースコールなど、幅広い業務を支援するサービスを展開するとのことだ。
また、スマートフォンに加えて、RPA(Robotic Process Automation:ロボットによる業務自動化)やペーパーレス会議ツール、ビーコンを用いた行動分析ツール、人材マネジメントシステムなど、医療機関の課題解決を支援する幅広いサービスを提供する。
奈良県庁×NTT Com、医療DXに向けた実証実験の結果を公表
NTT Comと奈良県は2023年1月23日から3月31日まで、市立奈良病院および奈良県総合リハビリテーションセンターにおいて医療従事者の業務を支援する実証実験を実施した。
市立奈良病院の場合 - 非効率な移動に時間を費やしていることが明らかに
市立奈良病院では、位置情報を取得できるビーコン「Beacapp Here」を用いた実証実験を実施した。研修医を含む医師40人がビーコンタグを持ち、院内の約25カ所に設置した受信機で「いつ」「どこで」「誰が」作業をしているのかを可視化し、課題の抽出を試みた。
その結果、同院では勤務時間のうち診察や検査といった医療行為を行っている時間を除いた時間(間接医療)のうち、約2割を移動時間に費やしていることが明らかになったという。そこで、医療従事者の働き方改革に向けて業務のタスクシフトの推進やITツールの活用が有効であることが示唆されたとのことだ。
同社はITツールの導入例として、セキュアチャットを紹介していた。セキュアチャットの導入により、チーム医療や多職種の連携が進むと考えられ、コミュニケーションのために発生する移動時間の削減が見込める。申し送り業務の簡略化やコミュニケーションの円滑化によって、場合によっては、看護師の本来の業務であるベッドサイドでの時間を約100分創出できるとしている。
奈良県立総合リハビリテーションセンターの場合 - 1人7.8時間/月の業務削減も可能に
奈良県総合リハビリテーションセンターでは、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士にPHS端末の代わりにスマートフォンを貸与して、「AI音声認識ワークシェアリング」を導入した。このサービスは医療用語にも対応する音声認識技術で、患者対応の内容や申し送り内容を音声でメモできる。加えて、市立奈良病院でも利用した「Beacapp Here」と、議事録作成支援ツール「AmiVoice ScribeAssist」も導入している。
ビーコンを用いた位置情報取得の結果、勤務時間の約7割をリハビリ業務が占め、残りの約3割を記録業務が占めていることが明らかになったという。そこで、「AI音声認識ワークシェアリング」を導入したところ、院内で本格的な稼働を開始した場合には1人当たり1カ月間に7.8時間の業務を削減できるとの試算結果を出せたとのことだ。
しかし、個人個人によって「AI音声認識ワークシェアリング」の利用度合いにばらつきがあったため、本格的な稼働に際しては運用ルールの整備やサービスの利用を促す仕組み作りが課題として挙げられるようだ。
また、議事録作成支援ツールの導入については定量的な結果を公表していないものの、利用者へのアンケートから「負担軽減」「時間外勤務削減」「記載内容漏れ・忘れ防止」「記載内容の質の向上」「記載情報の紛失リスクの低減」「医療提供サービスの質向上」の6つの観点で高い評価を得られたとしている。