スーパーコンピューターの計算速度の世界ランキング「TOP500」が日本時間22日、独ハンブルクで開かれた国際会議で発表され、米オークリッジ国立研究所の「フロンティア」が2022年11月の前回に続きトップとなり、3連覇を果たした。同機は22年5月、史上初めて毎秒100京回(京は1兆の1万倍)を意味する「エクサ級」を達成している。理化学研究所の「富岳(ふがく)」は2位を守った。また東京工業大学などは富岳を使い、生成AI(人工知能)の基盤技術の開発を24日に開始すると発表した。
TOP500は性能評価用プログラムの処理速度を年2回競うもの。最新版では米エネルギー省がクレイ社などと開発したフロンティアが、前回までの毎秒110京2000兆回から119京4000兆回へと性能を高め、44京2010兆回の富岳をさらに引き離した。3位も前回と同じで、欧州高性能計算共同事業体がフィンランドに設置した「ルミ」がランクインした。
上位500台の内訳は米国が最多の150台で、中国を逆転。これに中国134台、ドイツ36台、日本33台、フランス24台が続いた。TOP500でエクサ級を達成したのは依然、フロンティアのみ。ただ申請がないものの、中国が既に複数のエクサ級スパコンを開発したとの情報もある。
日本は先代「京(けい)」が2011年に連覇した後、中国や米国に抜かれた。2020年6月、富岳で8年半ぶりに首位となり、21年11月まで4連覇した。TOP500と同時に発表された、産業利用に適した計算の速度を競う「HPCG」と、グラフ解析の性能を競う「Graph(グラフ)500」で、富岳は7期連続の1位を達成。AIの深層学習に用いられる演算の指標「HPL-MxP(HPL-AIから改称)」では3位となった。
富岳は理研と富士通が共同開発。理研計算科学研究センター(神戸市)の京の跡地に設置され、2020年4月からの試験利用を経て21年3月に本格稼働した。文部科学省「成果創出加速プログラム」のほか、一般公募や国の重要課題での利用などが進んでいる。理研は富岳の後継機実現に向け、文科省からの受託により2022年8月、求められる性能や機能の調査研究に着手した。
松岡聡センター長は「富岳は世界トップ級の総合的な実力を示した。世界でスパコン開発が繰り広げられる中、長期にトップクラスの性能を維持するため、向上を図ってきた成果だ。多角的な指標で評価を受け続けていることは、幅広い分野での活用を目指した富岳の開発方針が正しく実現できたことを示す。培った知見と能力は次世代スパコン開発の検討でも生かされる」とコメントした。
一方、東京工業大学と東北大学、富士通、理研は22日、富岳を活用し、生成AIの中核技術「大規模言語モデル」の学習手法を開発すると発表した。生成AIは利用者の指示や質問を受けて文章や画像などを作成する。米企業が開発した「チャットGPT」などが急速に普及しているが、学習して性能を高めるには、大量のデータを効率よく処理する必要がある。そこで大規模な並列計算に秀でた富岳を活用し、学習手法を開発する。
また、海外で開発された生成AIは学習データに英語が多く、日本語の指示や質問に対する精度が低いと指摘されてきた。4者は、日本語のデータを中心に使い言語モデルを開発する。期間は24日~2024年3月末。成果は公開し、研究者や技術者がモデルの改善や応用研究に参画することを通じ、研究やビジネスへの活用を図る。
TOP500のランキング上位は次の通り(名称、設置組織、国、毎秒の計算速度)。
1位 フロンティア オークリッジ国立研究所(米国)119京4000兆回
2位 富岳 理研計算科学研究センター(日本)44京2010兆回
3位 ルミ 欧州高性能計算共同事業体(フィンランド)30京9100兆回
4位 レオナルド 欧州高性能計算共同事業体(イタリア)23京8700兆回
5位 サミット オークリッジ国立研究所(米国)14京8600兆回
※以下、日本勢上位
24位 ABCI2.0 産業技術総合研究所 2京2210兆回
25位 ウィステリア・ビーデック01(オデッセイ) 東京大学 2京2120兆回
41位 トキ・ソラ 宇宙航空研究開発機構 1京6590兆回
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