ラックは5月24日、金融犯罪対策センター(Financial Crime Control Center:以下、FC3)が不正利用される銀行口座(不正口座)を検知するAI(Artificial Intelligence:人工知能)技術を開発し、金融犯罪対策ソリューション「AI ZeroFraud(AIゼロフラウド)」に組み込んで提供を開始することを発表した。
FC3は「金融犯罪対策の駆け込み寺」をキャッチフレーズとして設立された組織で、金融機関出身者が多く所属するのが特徴だ。金融業界の専門知識とAIや機械学習の技術を組み合わせた独自の不正検知ソリューションの開発に強みを持つ。
同社が今回開発したのは、犯罪者らが犯罪行為に用いる不正口座を検出する技術だ。同技術は、犯罪資金や不正に詐取した資金に対し、その引き出しや現金化を防ぐことを目的に開発された。犯罪者が資金を窃取する受け皿となる不正口座を検知するべく、大手地方銀行と共に開発を進めたという。
ちなみに、犯罪者が不正口座を入手する手段は、偽造した身分証などを用いて他人名義で新たに口座を開設する場合や、一般の利用者が開設した口座が譲渡・売買される場合があるそうだ。大手銀行の口座は1口座あたり数万円~数十万円で取引されているとのこと。
ラックが手掛けているAI ZeroFraudはこれまで、顧客と顧客資産の保護を目的として、インターネットバンキングの不正送金やATM特殊詐欺の不正取引を主な検知のターゲットとしていた。今回新たに不正口座や口座の不正利用を検知する機能を追加したことで、より効果的に特殊詐欺などで不正に窃取の資金移動を防止できるようになった。
不正口座の検知機能が対応するのは、キャッシュカードの盗難や特殊詐欺、闇金融などの犯罪行為に用いられている口座における入出金だ。過去の取り引きデータや、個人情報をマスクした属性データ(性別・年齢など)をAIの分析対象として用いる。過去の取り引きと大きく離れた場所での出金や急な多額の現金の引き落としなどをアラートとして金融機関に提示する。
同社が事前に実施した大手地方銀行との共同実証実験の結果によると、不正口座の検知率は95%を達成し、銀行が不正を確認するよりも最大で約2カ月早く不審な取り引きを判定できたとのことだ。
ラックの代表取締役社長である西本逸郎氏は「金融機関のセキュリティ対策といえば、金融システムや銀行内のインフラを守るソリューションが主流だった。しかし近年は金融機関の利用者を標的とする犯罪が増えており、金融犯罪を防ぐためにも犯罪資金の流れを断つことが重要。当社は信じられる社会を実現するために成長を続けたい」と新ソリューションへの期待を語った。
AI ZeroFraudはAIを搭載する性質上、より多くのデータを用いることで判断の精度が向上する。AIゼロフラウドで銀行同士の情報共有ができれば、犯罪抑止力の向上が期待できる。そこで同社は、まずは多くの銀行がソリューションを導入できるよう働きかけるとしている。業界横断的なプラットフォームを目指すようだ。
なお、銀行間で共有されるのは不正口座であると疑われる情報や取り引きのみで、顧客情報などを共有するわけではない。勘定系システムを共有する地方銀行グループなどを皮切りに、全国の金融機関への導入を進める方針だ。