国立天文台 ハワイ観測所は5月22日(ハワイ現地時間)、5月に国際天文学連合から土星の衛星として新たに発表された62天体のうち、土星の衛星として通算100番目に報告された「S/2004 S43」(仮符号)を含む約半数を、すばる望遠鏡による2004年から2007年にかけての観測で発見したことを発表した。

  • 土星の衛星の軌道を示す概念図。(左)極方向から。(右)赤道方向から。今回発表された新しい衛星は、外側の軌道を回る不規則衛星だ。不規則衛星の軌道は赤、緑、青色で表されている。

    土星の衛星の軌道を示す概念図。(左)極方向から。(右)赤道方向から。今回発表された新しい衛星は、外側の軌道を回る不規則衛星だ。不規則衛星の軌道は赤、緑、青色で表されている。(c)スコット・シェパード/カーネギー研究所(出所:すばる望遠鏡Webサイト)

同成果は、米・カーネギー研究所のスコット・シェパード教授が率いる研究チームによるもの。

今回の国際天文学連合の発表により、土星の衛星数は145個となた。なお新たに発表された62個の衛星は、直径2kmほどの小さな天体で、土星本体から遠く離れた楕円形で傾いた軌道を有し、土星本体の自転とは逆向きに公転するものが多いという特徴を持つ不規則衛星だ。

またその約半数は、すばる望遠鏡でかつて稼動していた主焦点カメラ「Suprime-Cam」(現在は超広視野主焦点カメラ「Hyper Suprime-Cam」にアップデート)を用いた、2004年から2007年までの観測で発見された。100番目の衛星であるS/2004S43の初観測は2004年のことである。

今回の新衛星たちはとても小型であるために非常に暗く、明るさはわずか26等程度しかないという。そのため、軌道を決定するためには発見後もさらに年数をかけての追観測が必要だったとする。そして2019年と2021年に、台湾中央研究院 天文及天文物理研究所のエドワード・アシュトン博士が率いるチームが、すばる望遠鏡と同じくハワイ・マウナケア山頂にあるカナダ・フランス・ハワイ望遠鏡(CFHT)を用いた観測を行い、62個すべての衛星の軌道が確定された。

なおこれらの衛星は、元々は大きな衛星が、衛星同士あるいは彗星や小惑星との衝突で破壊されてできたものだという。そのような衝突から生じたかけらは、元の親衛星とほぼ同じ軌道を保持する。似たような軌道の数から、少なくとも、5個から8個の親衛星が存在していたことが推定されるとしている。

またこれらの衛星は、巨大惑星領域で形成されて惑星に取り込まれた天体たちの最後の生き残りだとする。米国航空宇宙局(NASA)が土星の衛星タイタンでの探査用として計画しているヘリコプター型(移動式ロボット回転翼着陸船)の「ドラゴンフライ」(2027年に打ち上げ予定)のような土星探査機で、これらの衛星を間近に撮影することができれば、惑星を作る材料となった始原的な物質についてより深く理解することができる可能性があるという。

なおシェパード教授によれば、土星の周辺においてさらに多くの小さな衛星を観測済みだとしたうえで、その軌道を決定するためにはより詳細な追観測が必要だとしている。これらの未確定の衛星候補の大半も、すばる望遠鏡による2004年の観測で初めて発見されたとする。

シェパード教授は、太陽系の第9惑星(プラネットX)の探索のため、すばる望遠鏡などを用いた観測で、10個以上の木星の新衛星を発見。2023年2月には木製の衛星の総数が95個となったことが発表され、木星が“最も衛星の数が多い惑星”となったばかりだった。しかし今回のシェパード教授による発見で、わずか3か月で土星がその座を奪還し、しかも一気に50個も引き離した形だ。

衛星数を巡る土星と木星の争いについて、シェパード教授は、土星の周りの衛星については、直径約3kmのものまでは完全に捉えていると考えているという。一方の木星については、地球により近いことから(太陽~木星間が約5天文単位、太陽~土星間は倍の約10天文単位)、さらに小さな、約2kmのものまで完全に捉えているとする。土星は観測可能な衛星サイズが木星よりも1km大きいにも関わらず、今回木星よりも50個も多く衛星が見つかっており、同じ2kmの範囲になれば、土星の方がさらに多くの衛星を持っていることが考えられるとしている。