日本電信電話(以下、NTT)は5月23日、vRAN(virtual Radio Access Network、仮想化無線ネットワーク)の消費電力削減のために開発したソフトウェア技術「省電力イネーブラ(Power Saving Enabler)」に関するオンライン記者説明会を開いた。同説明会では、同技術の詳細や実証実験の結果とともに、今後の市場展開が明かされた。
ソフトウェアの非効率な処理を最適化する3つの技術
vRANは無線アクセスネットワークの仮想化技術のことだ。5Gネットワークの構築に活用すべく複数ベンダーが開発・実証に取り組んでいる。5Gをはじめとした無線アクセスネットワークは、スマートフォンなどの端末から無線基地局を介してコアネットワークに接続し、インターネットや電話網を利用する。
5Gの無線基地局は、親局であるCU(Central Unit)/DU(Distributed Unit)と、子局であるRU(Radio Unit)で構成される。CU/DUには従来から専用のハードウェアが用いられているが、vRANによってサーバなどの汎用ハードウェア上に、ソフトウェアにより構成された機能を実装することで基地局として利用できる。
汎用ハードウェアで仮想化基地局を構築することで、専用ハードウェアに比べて構築コストを低減できるというメリットがある。一方で、無線基地局向けに設計されていない汎用ハードウェアではソフトウェア処理の非効率が発生し、運用時の消費電力が大きくなる傾向にあり、その点が課題となっている。
NTTは同課題に着目して、省電力技術の一環として省電力イネーブラの研究を開始した。同技術は、トラフィックの負荷に応じて必要最小限のコンピューティングリソースで基地局のソフトウェア処理をするよう制御するものだ。
NTT ネットワークイノベーションセンタ 研究員の福元健氏は、「仮想化基地局の各ソフトウェア処理を消費電力観点で分析した結果、電力を削減できる領域を複数発見し、そこに対する対策技術を考案した。省電力イネーブラにより、仮想化基地局の性能を劣化させることなく省電力化できることを確認できた」と解説した。
省電力イネーブラは、「ソフトウェア処理をスリープする制御技術」「処理に必要なデバイスを制御する技術」「デバイスが持っている省電力機能を最大化する制御技術」の3つの技術が適用されており、NTTが推進するIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想の技術の一環となる。
福元氏は、「IOWN構想の下で研究・開発を進める『光電融合技術』『オールフォトニクス・ネットワーク』『超強力・汎用WhiteBOX』と組み合わせることで、より大きな省電力効果を得られる」と述べた。
ベンダーへのライセンシングを予定
今回の実証実験では、富士通が販売しているDUの製品に省電力イネーブラを適用し、実際の商用ネットワークに近い環境で有効性の評価を行ったという。
vRANの主流なアーキテクチャである「Look-aside型」と「Inline型」の製品での実証実験の結果、NTTは低トラフィックの条件下において、どちらにおいても最大46%の消費電力削減効果を確認した。
省電力イネーブラの今後の展開について、福元氏は「ベンダーの仮想化基地局への搭載を通じてグローバルに展開することで5Gや6Gのネットワークの省電力化と、通信事業者の脱炭素化を支援して、持続可能な社会を実現していきたい」と語った。
具体的には、技術の活用を希望するベンダーへのライセンシングを予定している。省電力イネーブラを搭載したDUの販売台数とその売り上げに応じて、NTTはライセンスフィーを受け取る提供形態になるという。ライセンシングについては、すでに富士通と具体的な計画が進んでいるそうだ。
他方でNTTは、今回の取り組みにより発見した電力の非効率な処理について、全ての領域に対処できていないため、それらへの対応も順次進めていくという。
また、IOWN構想と連携して活用できるものも含めて、vRANの領域で活用できる技術があれば随時提供していき、ライセンシングのバリエーションを増やしていく構想だ。