サイバートラストは5月22日、CentOS Linuxの後継として注目されるLinux OS「AlmaLinux OS」を運営する The AlmaLinux OS Foundationに日本企業として初めてプラチナスポンサーとして参画し、コミュニティメンバーと協働してAlmaLinux OSの共同開発を行うことに先立ち、記者会見を開催した。
会見には、サイバートラスト 代表取締役社長の眞柄泰利氏、執行役員本部長の吉田淳氏、The AlmaLinux OS Foundation 理事会議長のベニー・バスケス氏、CloudLinux創始者でありCEOのイゴール・セレッキー氏らが登壇し、今後AlmaLinux OSの開発にコミットする計画を説明した。
本稿では、その一部始終を紹介する。
「ForkからJoin」への進化で安心安全なスタンダードLinux OSへ
今回共同開発することが発表された「AlmaLinux OS」は、2021年末に安定版リリースが廃止されたCentOS Linuxの後継として注目されているRed Hat Enterprise Linux(RHEL)クローンの無償Linux OS。CloudLinux社などの支援を受け、オープンソースのコミュニティ主導で中立かつ継続的な開発を実現している。
また、AlmaLinux OSは、ソフトウェアの構成管理、脆弱性管理に活用することでソフトウェアサプライチェーンの安全性を高めるための仕組みとして注目されているSBOM(Software Bill of Materials)を提供。サイバートラストは、Linux FoundationとOpen Source Software Security Foundationが策定したオープンソースソフトウェア(OSS)のセキュリティ強化に関する3つの目標と10項目の動員プランの推進に参画し、SBOMの普及や利活用に取り組んでいるという。
サイバートラストが提供しているMIRACLE LINUXとAlmaLinux OSの強みを連携し、RHELクローンOSの安定した提供と長期保守、セキュリティ向上に努めることがコミュニティにとって重要な取り組みであり、特にSBOM対応の推進がOSSセキュリティに対する透明性を高めると考え、サイバートラストのFoundationへの加入が決定したという
国際標準Linux OSの開発にボードメンバーとして日本企業が参画するのは初めてのことで、大きな期待がかかっているようだ。
「AlmaLinuxは活発なコミュニティによる迅速なリリースと機能改善が行われているのに加え、多数の支援企業が参画しており、プロジェクトの継続性と公平性が高いのが特徴です。そのため、他社と比較して透明性と公平性が高いプロジェクト運営が行われており、非常に信頼がおけると感じております」(眞柄氏)
また、サイバートラストの取り組みにおいて、キーワードになっているのが「ForkからJoinへ」だ。
Fork(分断)していたAlmaLinuxとMIRACLE LINAXがJoin(加入)することで、「開発効率」「継続性」「セキュリティ」が向上することが見込まれており、それぞれ、リリースプロセスのさらなる改善や公正性の向上、サプライチェーン機能の強化に寄与するという。
AlmaLinuxとMIRACLE LINAXのJoinに加えて、他のディストリビューター(卸売業者)のJoinも促すことで、開発効率・継続性・セキュリティの一層の強化を実現するほか、同じ目的を持つユーザーのLinuxのOS選定がより効率的になるとしている。
これによって、AlmaLinuxを「安心安全、長期、迅速」なスタンダードLinux OSへと成長させていく構えだ。
6月から3つの OSSセキュリティサービスを提供開始
サイバートラストは同日、CloudLinux社との提携を発表、ここでもLinux OSの「安心安全、長期、迅速」な運用にコミットしていく。
この提携により、製造業を中心とした中小企業の潜在的なサプライチェーンリスクに対して、日本全国のパートナーとともにOSSセキュリティサービスを展開していく予定だが、台数規模としては、2025年までに導入企業10万台を目標として設定しているという。
日本から韓国や台湾といったアジアへの進出も目指しており、相互連携を通して互いの商材を世界へ発信することを目指す。
提供されるOSSセキュリティサービスは、「AlmaLinux Standard サポート」(仮称)、「AlmaLinux ライブパッチサービス」(仮称)、「AlmaLinux FIPS 140-3対応サービス」(仮称)の3つ。
6月に提供開始される長期サポートサービスの「AlmaLinux Standard サポート」(仮称)は、現時点で16年継続する専用リポジトリや日本語サポートなどのメニューになる予定で、利用料はOS稼働数あたり年間8万4000円(税別)となっている。
さらに8月以降には、CloudLinuxが開発するOS無停止のカーネル更新技術を用いた「AlmaLinux ライブパッチサービス」(仮称)や、米国に輸出する企業などを対象とした「AlmaLinux FIPS 140-3対応サービス」(仮称)も提供される予定。利用料はAlmaLinux ライブパッチサービスがOS稼働数あたり年間12万円(税別)、AlmaLinux FIPS 140-3対応サービスがOS稼働数あたり年間16万2000円(税別)になる。
会見の最後には、CloudLinux創始者でありCEOのイゴール・セレッキー氏が登壇し、以下のように会見を締めくくった。
「この協業は、信頼性が高くセキュアなLinuxソリューションをこの革新的な国の企業に提供するというわれわれのミッションにおいて、重要なマイルストーンとなります。これによって、日本だけでなく世界中のLinuxコミュニティをより強固にするものになると考えています。われわれのライブパッチ技術は、セキュリティやコンプライアンスに対応しながら安定したサービスを行っていくために重要なものであり、サイバートラストと連携して、日本の顧客に長期的にサポートを提供していきたいと思っております」(セレッキー氏)