名古屋大学(名大)は5月18日、素粒子のミューオンを利用した「宇宙線イメージング」により、イタリア・ナポリの市街地にある複雑な地下遺構を可視化した結果、ギリシャ時代の埋葬室を新たに発見したことを発表した。
同成果は、名大大学院 理学研究科/高等研究院/未来材料・システム研究所の森島邦博准教授、名大 未来材料・システム研究所の北川暢子特任助教、イタリア・ナポリ大学の研究者らが参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。
古代ネアポリスの遺跡は、紀元前1000年後半ごろにギリシャ人によって建設された建物や道路、水道橋、墓地などで構成され、現在のナポリ市街の地下10mほどに埋もれているという。しかし、ナポリのような大都市の人口密集地では、建物や道路の安全性に配慮する必要があり、発掘による考古学的調査は困難だ。
ただし、16世紀以降に作られた貯水槽や第二次世界大戦中に作られた防空壕などの地下構造がこれらの遺跡を横断している場合、地上から地下遺構の調査が可能だ。そのため、ナポリ・サニタ地区には、紀元前6世紀~紀元前3世紀の古代ネクロポリスの2つの貴族の埋設室が存在することが知られている。
そして近年の地下遺構の3D測量による調査からは、それらの周辺にも別の埋葬室が存在する可能性が検討されていた。そこで研究チームは今回、その仮説を検証するため、宇宙線イメージングによる未知の埋葬室の探査を行うことにしたという。
宇宙線イメージングは、大気圏に飛び込んできた宇宙線が、酸素や窒素などと衝突することで二次的に生成される透過力の高い素粒子のミューオンを使った、非破壊で建造物や地下構造などを可視化できる、レントゲンのような技術だ。同技術はこれまで、エジプトのクフ王のピラミッド内部に存在する未知の空間の発見や、福島第一原発2号機の炉心溶融の可視化など、いくつもの実績を挙げている。また今回のように、地震波やボアホールのような調査方法の適用が難しい都市環境での利用に非常に適した技術である。
ミューオンの測定は、画像フィルム型の検出器「原子核乾板」を用いて行う。同乾板は、軽量かつ非常にコンパクトであり電源を必要としないため、狭い場所や粉塵が多い地下遺跡やトンネルの内部といった過酷な環境下での使用にも適しているという。