広島市などで開かれていた先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)は20日、同サミットでの成果をまとめた首脳声明を発表した。最終日の21日は初日19日に参加が公表されたウクライナのゼレンスキー大統領のほか、前日に引き続いて「グローバルサウス」と呼ばれる新興・途上国の首脳らも加わった参加国拡大の討議を行い、閉幕した。

首脳声明はウクライナ侵攻を続けるロシアを「最も強い言葉で非難する」と強調し、「核兵器のない世界」の実現に向けたコミットメントを表明した上で、安全な世界をつくるための軍縮、核不拡散の取り組みの重要性を再確認した。

また、環境、気候変動・エネルギー、感染症対策などの保健衛生、デジタル・人工知能(AI)といった地球規模の課題での対策を、新興・途上国とも連携しながら結束して進めることを確認した。

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    G7首脳のほか、新興国首脳やウクライナのゼレンスキー大統領も参加した21日のセッション9「平和で安定し、繁栄した世界に向けて」の様子(会議会場のグランドプリンスホテル広島、G7広島サミット事務局/外務省提供)

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    G7広島サミット首脳声明の1ページ目(G7広島サミット事務局/外務省提供)

新興国にも温室効果ガス削減強化を求める

会議2日目の20日、G7広島サミットのセッション7「持続可能な世界に向けた共通の努力」が開かれた。先進7カ国に8カ国の招待国と7つの招待機関を交え、環境、気候変動・エネルギーなどについて議論が行われた。

外務省によると、このセッションでは、「気候危機」への対応は世界共通の待ったなしの課題で、G7は太平洋島嶼(とうしょ)国やアフリカなど、その他の地域の国々も一緒に取り組む必要があることを確認。気候変動・エネルギー問題は、生物多様性や、プラスチック汚染といった関連課題と一体的に取り組む必要があることなどで一致したという。

首脳声明は、気候変動問題に関してまず「世界の産業革命前からの気温上昇を1.5度に抑えるために我々はこの勝負の10年に行動を拡大する」「遅くとも2050年までに世界の温室効果ガス排出量を実質ゼロにする目標は揺るがず、30年までに19年比で約43%、35年までに約60%削減する緊急性が高まっている」とした。

そして「世界の気温上昇の抑制に全ての主要経済国が果たす重要な役割を認識する」と指摘した。この文言はG7以外の新興国、具体的には世界の排出量1位の中国や3位のインドなどを念頭に、2030年の温室効果ガス削減目標の引き上げを含む対策強化を求めた内容だ。

G7の取り組みとしては、4月に札幌市で開いたG7気候・エネルギー・環境相会合で合意した「排出削減対策が講じられていない化石燃料使用の段階廃止の加速」を再確認したが、石炭火力発電の廃止時期は盛り込まれなかった。

また再生可能エネルギーの導入拡大については、各国の既存の導入目標などを基に洋上風力発電の発電能力を30年までに1億5000万キロワット増やし、太陽光発電は10億キロワット以上に増加させるとの数値を盛り込んだ。

エネルギーの項目で、東京電力福島第一原発事故の処理水を放出する日本政府の方針に関しては「人体や環境にいかなる害も及ぼさないことを確保するための国際原子力機関(IAEA)の独立したレビューを支持する」とした。

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    G7首脳に招待国首脳や国際機関の長が加わっての記念写真(20日、グランドプリンスホテル広島前、G7広島サミット事務局/外務省提供)

パンデミックに対応する新たな枠組みの設立を表明

新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的流行)では、地球規模の重大な保健医療問題に対する世界的な仕組みや組織などの在り方(グローバルヘルス・アーキテクチャー=GHA)の脆弱(ぜいじゃく)性が指摘された。特にワクチンは比較的早く開発されたものの、アフリカなどの発展途上国での接種率の低さが問題になった。

G7広島サミットの首脳声明は保健の項目でこのGHAを発展・強化すること、途上国が将来のパンデミックの予防や備え、対応(PPR)とPPRのための基金への支持を確認した。また、ワクチンなど感染症に関する医薬品を、途上国を含む世界全体へ公平・迅速に、手頃な価格で分配することを促す新たな枠組み「感染症危機対応医薬品等に関するデリバリー・パートナーシップ(MCDP)」の設立を表明した。

新型コロナウイルス感染症のワクチンは流行確認から約1年で実用化されたが、資金力がある先進国に優先的に分配され、供給量が安定してある程度途上国に届くようになっても、医療関係者の不足などの問題があって接種率が上がらなかった経緯がある。厚生労働省関係者によると、首脳声明に盛り込まれたMCDP設立構想はこうした教訓から生まれた。G7はMCDP運用に関しては世界保健機関(WHO)や世界銀行、国連児童基金(UNICEF)などの国際機関、ワクチン開発を支援する国際組織「CEPI」などと協力していくという。

「信頼できる」「責任ある」AIへ、「広島プロセス」年内開始

AIなどのデジタルの問題については会議初日の19日、セッション1「分断と対立ではなく協調の国際社会へ/世界経済」の中で、「人間中心の信頼できるAI」の構築を掲げ、国際的なルール策定に向けて協議する「広島AIプロセス」を年内に始めることで合意した。

これを受けた首脳声明は、まず「急速な技術革新は社会と経済を強化してきた一方で、新しいデジタル技術の国際的なガバナンスが追いついていない」と指摘した。そして公正性や説明責任、透明性、安全性、オンラインでのハラスメント・ヘイト・虐待からの保護、プライバシー・人権の尊重、基本的自由、個人データの保護という「民主的価値」に留意する必要がある、としている。

また、チャットGPTなどの生成AIについて「法的拘束力を有する枠組みを尊重しつつ、『責任あるAI』を推進するために透明性、開放性、公正なプロセス、公平性やプライバシー保護とインクルーシブ(包括性)を推進する手続きを尊重する」とした。

生成AIの規制についてはG7各国間で温度差がある。このため声明には規制につながる直接的な文言は書き込まれなかった。G7広島サミットに先駆けて群馬県高崎市で4月下旬に開かれたG7デジタル・技術相会合は国際的なルール策定を目指し、民主主義や人権を脅かす利用への反対を表明した。生成AIを含む新興技術には「イノベーションの機会の活用」「法の支配」「適正手続き」「民主主義」「人権尊重」の5原則で開発・活用と規制の両立を図るとした。

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    会議初日19日の「セッション1」でのG7首脳(グランドプリンスホテル広島、G7広島サミット事務局/外務省提供)

G7首脳やウクライナ大統領、新興国首脳が原爆資料館を視察

G7広島サミットの討議開始に先立ち、バイデン米大統領らG7首脳は19日、広島市内の平和記念公園内にある原爆資料館を史上初めてそろって訪問、慰霊碑に献花した。被爆者とも対面し、原爆の惨禍の話を直接聞いたという。詳細は明らかにされていないが、首脳らは資料館では原爆投下で壊滅的な被害を受けた当時の街の写真など常設展示の一部を視察したとみられる。この日、共同文書「核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン」も発表し、広島に続いて投下された長崎を最後に77年以上、核兵器が使われてこなかった歴史の継続を訴えた。

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    19日正午ごろ、 広島市内の平和記念公園内にある原爆資料館を訪問した後に慰霊碑に献花するG7首脳(G7広島サミット事務局/外務省提供)

またウクライナのゼレンスキー大統領はG7広島サミットが閉幕した後の21日午後、厳重な警備体制の下、原爆資料館を訪れ、岸田文雄首相と共に平和記念公園の原爆慰霊碑に献花した。テレビ映像に映る同大統領は、この日の討議で着ていた全身カーキ色の服装から黒いトレーナーに着替えていた。弔意を表したとみられる。

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    21日午後、岸田文雄首相(左)と共に慰霊碑に献花するウクライナのゼレンスキー大統領(G7広島サミット事務局/外務省提供)

G7広島サミットに参加したG7首脳は岸田文雄首相、バイデン米大統領、トルドー・カナダ首相、マクロン・フランス大統領、スナク英国首相、ショルツ・ドイツ首相、メローニ・イタリア首相、ミシェル欧州連合(EU)大統領、フォンデアライエンEU欧州委員長。

8つの招待国はオーストラリア、ブラジル、コモロ、クック諸島、インド、インドネシア、韓国、ベトナム。7つの招待機関は国連、国際エネルギー機関(IEA)、国際通貨基金(IMF)、経済協力開発機構(OECD)、世界銀行、WHO、世界貿易機関(WTO)。

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