日本の岸田文雄首相は2023年5月18日、海外からの人材・資金の呼び込みや投資を促進するため、米国や欧州、韓国、台湾の半導体関連の主要企業7社の幹部と首相官邸で意見交換会を開催した。
各社からはAIをはじめとした最先端技術を支える半導体の重要性について説明が行われたとともに、日本での投資や取り組みに対する意思表明があり、岸田首相は、参加企業による日本への投資に関する前向きな発信を歓迎し、対日直接投資のさらなる拡大、半導体産業の支援に取り組んでいく考えを述べたと伝えられている。しかし、会議は非公開であり、各社の発言内容は公開されていない。
具体的は各社がどのような投資を検討しているのか、会合に同席した経済産業省の西村経済産業大臣のSNSでのコメントや参加企業の公式発表といった正式なものから、業界内部の関係者たちが交わす噂レベルの非公式なものまで含め、日本への投資内容をまとめてみた。
TSMC:出席者はMark Liu会長
西村大臣のSNSによると、Liu会長は、岸田首相に「日本における投資拡大」の話をしたという。TSMCは、日本への投資に関して、現在、以下のような状態にある。
- 日本における第1工場となる熊本のJASM(Japan Advanced Semiconductor Manufacturing)は、日本政府の補助金を得て建設中で、2024年末より稼働予定
- 日本における第2工場の建設を具体的に検討中。日本政府の補助金と需要次第(台湾におけTSMC決算説明会でのC.C.Wei社長の発言)。西村大臣は、この動きに対する支援を表明
- 日本のミッシングピースともいえる12nmプロセス未満の微細プロセスの製造に向けた第3工場の建設に向け、経済産業省(経産省)が誘致しているとの未確認情報も出ている
Micron Technology:出席者はSanjay Mehrotra CEO
- 広島工場に最大5000億円を投資。2025年以降に向けた1γ DRAMの開発・製造を行うことを目的に日本初のEUV露光装置を導入する
Intel:出席者はPat Gelsinger CEO
西村大臣によると、IntelのGelsinger CEOは「日本の装置・素材企業との連携拡大」の話をしたことになっている。具体的には、環境にやさしい半導体製造用素材やサステナブルな半導体製造やパッケージング工程の自動化などに関して日本企業との連携を強化するという。
日本への投資に関しては、以下のような事実が確認されている。
- 理化学研究所(理研)とAI(人工知能)、ハイパフォーマンス・コンピューティング、量子コンピュータなどの次世代コンピューティング分野における共同研究を加速させる連携・協力に関する覚書を2023年5月18日に締結した
- 日本に先端パッケージングの研究開発拠点設置を検討(半導体業界の噂レベル)
- 2022年2月にイスラエルTower Semiconductorを54億ドルで買収契約を結んだが、その後1年以上たった今もまだ中国の規制当局の許可が下りていない。許可が下り次第、Towerの日本法人Tower Partners Semiconductor(TPSCo)の北陸3工場(元パナソニック半導体工場群)の所有権の51%がIntelのものとなる。ファウンドリ事業の日本への進出の足掛かりとなる見込み
Applied Materials:出席者はPrabu Rajaセミコンダクタグループプレジデント
半導体製造装置メーカーとして唯一参加となったのが最大手のApplied Materials(AMAT)。
西村大臣のSNSによると、「Rapidusへの協力および人材教育への協力」とのことだが、具体的な部分は不透明。Rapidesの小池社長がかつて日立製作所時代にトレセンティテクノロジーズを立ち上げようとした際、AMATに枚葉処理化で支援を求めた経緯があり、Rapidusの量産立ち上げでも協力を取り付けていると思われる。
AMATのPrabu Raja氏は、一部メディアに「今後数年で日本において800人の技術者を採用し、人員を現在の1.6倍に引き上げ、研究開発にも注力する」と述べている。
Samsung Electronics:出席者は慶桂顕 Device Solutions部門CEO
西村大臣のSNSによると、Samsung Electronicsの慶桂顕氏は「日本における半導体後工程の研究開発投資」に関して話したという。
神奈川県内に300億円投じて新たに3DICパッケージング研究開発拠点を設置する計画で、そのため高い技術力を持つ日本の製造装置・素材メーカーと連携するとしている。日本政府に100億円程度の補助金を申請したとも一部メディアでは報じている。Samsung自体は、「日本政府や関連企業と交渉中なのは事実だがまだ正式に決まったことはない」と述べており、政府の補助金支給が決まり次第の動きと思われる。
IBM:出席者はDario Gil SVP兼IBM Research ディレクタ
- 2022年時点でRapidusと戦略的パートナーシップを締結、2nmプロセス技術に関するライセンスを供与。すでに米ニューヨーク州のアルバニー・ナノテク・コンプレックスに7名のRapidusの技術者を受け入れ済み。2023年夏には100名近く、最終的には200名近くを受け入れる見通し
- 東京大学と共同で、127量子ビットのプロセッサを搭載した量子コンピュータ「IBM Quantum System One with Eagleプロセッサ」を2023年中に「新川崎・創造のもり かわさき新産業創造センター(KBIC)」に設置し、共同で稼働させる
imec:出席者はMax Masoud Mirgoliワールドワイド戦略パートナーシップ担当EVP
- 先端半導体開発でRapidusと連携。EUVをはじめとするプロセス技術に関する技術指導、Rapidusのimecコアプログラムへの参画とそれに基づく技術者の受け入れを計画
- 日本に研究拠点の設置を検討中