日本の岸田文雄首相は5月18日、日本における半導体サプライチェーン強化に向け、海外の主要半導体関連企業7社(TSMC、Intel、Micron Technology、Samsung Electronics、Applied Materials、IBM、imec)の幹部と会談し、日本への投資拡大を呼びかけた。
この8社のうち、IntelやMicron、Samsung、TSMCはCEOが出席したが、imecからはLuc Van den hove CEOに代わってエグゼクティブバイスプレジデント(EVP)のMax Mirgoli氏が出席した。ワールドワイド戦略的パートナーシップ担当で、imecの役員人事8位にランクされる人物である。
imecからCEOが出席しなかった理由は、imecにとって最大の年次イベント「imec technology Forum(ITF)World 2023」が、5月16-17日にベルギーにて開催されており、そちらに出席する必要があったためである。同社の広報担当者によれば「Van den hove CEOは、イベントのホストであり、抜けるわけにはいかないため、代わりに世界規模の戦略的提携担当EVPが派遣された。日本での研究所設立については、未だ検討段階であり、(日本進出決定などの)新たな発表を東京で行う予定はない」とのことであった。
日本の研究所では半導体のライフサイエンスや自動車応用が研究か?
imecは現在、本社のあるベルギー国外ではオランダと米国に研究所を有している。オランダでは、主にプロセッサやセンサのヘルスケア応用に向けた研究を推進しており、一方の米フロリダの研究所は、シリコンフォトニクスを中心に据えたデザインセンターとなっており、いずれもベルギー本社の半導体のプロセス微細化や先端研究とは棲み分けがなされている。
imecは、RapidusがEUVを活用するための技術支援するために北海道に拠点を設置するのみならず、東京近郊で、半導体の微細化そのものの研究ではなく、高齢化社会への対応のために、日本国内で需要が見込める医療・ヘルスケアなどのライフサイエンスへの半導体技術の応用や日本がシェアを有しつつも、(先端半導体の適用という側面では海外の競合に遅れを取っている)自動車分野の半導体ならびにAIの応用に関する研究を日本企業と密接に連携しながら進めるのではないかという見方も出ている。5月初頭の西村経済産業大臣のimec訪問時に、Van den hove CEOが「日本に研究拠点の新設を検討している」と答えたものの、具体的な内容については現在、最後の詰めを行っている模様である。
imecの関係者によると、同社は日本進出に備えて日本人の人材に向けたリクルートを進めており、すでに東京大学 大学院工学系研究科 附属システムデザイン研究センター(d.lab) 先端デバイス研究部門の丹羽正昭 席研究員のリクルートに成功した模様である。同氏は、松下電器産業(現パナソニック)の半導体事業部門の中心的な研究者の1人で、同社勤務後、筑波大学や東北大学の教授を歴任。松下電器産業時代の2000年代、imecに数年間出向し、imecの研究者と先端CMOSの共同研究をした経験もある。