米ServiceNowは5月16日~18日(現地時間)にかけて、年次イベント「Knowledge 2023」を米国ラスベガスのThe Venetian Convention & Expo Centerで開催した。

2004年に創業した同社は、IT資産管理やIT運用管理の業務アプリケーションの提供から事業を開始。その後は、EX(エンプロイーエクスペリエンス)、CX(カスタマーエクスペリエンス)、業界特化型など提供するアプリケーションの幅を広げ、現在はローコード・ノーコード開発アプリケーションも提供している。同社のアプリケーション基盤となるのが、単一のデータモデルとアーキテクチャによるクラウドプラットフォーム「Now Platform」だ。

イベント初日の5月16日にはオープニングイベントとして同社CEOのビル・マクダーモット氏による基調講演が行われ、AI分野における米マイクロソフトとの戦略的パートナーシップと同社が注力する事業領域が発表された。

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生成AIを活用した3つの新機能を提供

基調講演の冒頭では、デジタルスキルなどを獲得するためのトレーニングプログラムを提供する「RiseUp with ServiceNow」において、新たなスキルを身につけるユーザーを2024年末までに100万人まで増やす目標が示された。

RiseUp with ServiceNowでは、特定の技術職に就くために必要なデジタルスキルだけでなく、クリティカルシンキングや対人コミュニケーション、クリエイティビティといった全人的なスキル獲得のためのトレーニングメニューをNow Platformを通じて提供する。加えて、個人のキャリア再構築のサポートのために非営利団体や政府機関と連携してネットワーキングやイベントなども実施している。

マクダーモット氏は、「RiseUP with ServiceNowは、個人と企業に必要なスキルトランスフォーメーションをサポートする。私たちがエンタープライズITに革命を起こせてこれたのは、ユーザー企業、そしてパートナーとともにあったからだ。現在のユーザーコミュニティを倍にしていきたいと考えており、今回の意欲的な目標はその一環でもある」と語った。

  • 米ServiceNow CEO ビル・マクダーモット氏

    米ServiceNow CEO ビル・マクダーモット氏

同日には同社が、米マイクロソフトとAI分野において戦略的パートナーシップを拡大することが発表された。同協業によって今後、Now Platform向けに新しい生成AI(ジェネレーティブAI)ソリューションが提供される予定だ。

「マイクロソフトとのパートナーシップでServiceNowの既存のAI機能が拡張される。そして、生成AIの力を業務アプリケーションに適用することにより、迅速でよりインテリジェントなワークフローの自動化が実現できる」とマクダーモット氏。

  • マイクロソフトとの協業でNow Platformに生成AI機能が組み込まれる

    マイクロソフトとの協業でNow Platformに生成AI機能が組み込まれる

新たに提供される生成AIを活用した機能は3つだ。「ServiceNow Generative AI Controller」は、ServiceNowインスタンスをOpenAIのAIサービスおよびMicrosoft Azure OpenAIに接続するための機能だ。また「Assist for Search」はポータル検索やバーチャルエージェントなどに生成AI機能を付加するためのもの。

そして「ServiceNow Cloud Observability」は、オブザーバビリティプラットフォームである「Lightstep」でメトリクス、トレース、ログを単一のソリューションに統合する機能だ。同ツールではすべてのツール、人、プロセスにわたってインサイトとアクションを結びつけることが可能だという。

同協業に関連して、RiseUp with ServiceNowにMicrosoft Azureに関するトレーニングコースが設けられる。Now PlatformとAzureのスキルを有した人材を発掘・雇用するためのスキルエコシステムも拡充される。

「エクスポネンシャル・エンタープライズ」に向けて10領域に注力

マクダーモット氏は、「産業革命は私たちの規模を拡大し、ドットコム革命は消費と取引の在り方を変えた。ソーシャルメディアとモバイルによって繋がりとコミュニケーションは変容し、アナログからデジタルへの移行で働き方が変わった。次に到来するのが知能(インテリジェンス)革命だ。これは人々の創造性の革命で、ミッションクリティカルな意思決定に変化をもたらすだろう」と予見する。

そうした時代に価値を最大化するうえでは、リニア(直線)思考ではなく、エクスポネンシャル(指数関数)思考なマインドセットがビジネスに重要であるとマクダーモット氏は考える。

現在、企業は旧来のアーキテクチャやサイロを超えて、システム統合やDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組んでいる。そうした中では、短期視点での結果でなく、将来のニーズを捉えて新たな機会を創出する「エクスポネンシャル・エンタープライズ」という姿勢が重要になるという。

企業のエクスポネンシャル・エンタープライズの実現に向けて、同社はエンドトゥエンドでDXを実現させるプラットフォームの提供、AIロードマップ、Now Platformなど10領域に注力する方針だ。それらは今回のイベントにおける見どころでもあるという。

  • 「エクスポネンシャル・エンタープライズ」の実現に向けて米ServiceNowが注力する10の領域

    「エクスポネンシャル・エンタープライズ」の実現に向けて米ServiceNowが注力する10の領域

テクノロジーを活用して最大の運用効率を得たり、物事の優先順位付けや意思決定をシンプルに行ったりするうえで、マクダーモット氏はAIに期待を示しつつ、ワークフローの統合と自動化の必要性も訴えた。

「AIがあることで人間が不要になるわけではない。むしろ、AIは人間の創造性を支援する。今まで以上に人間とAIが関連性を高めることが重要になるだろう。これまで、効率化のためにさまざまなテクノロジーが注目されてきたが、組織にはランダムにツールが誕生してしまっている。1つの部門では役に立つが、組織全体では何も変わらないという状況もある。だからこそ、当社はワークフローの変革も同時に必要だと考える」(マクダーモット氏)

同日にはAIを活用した新たなワークフロー支援ソリューションも発表された。「Employee Growth and Development」では、異なる学習・開発システムをNow Platformで繋ぐことで、キャリアプラン、能力開発目標、学習リソースを管理し、従業員に提供できる。

「Finance and Supply Chain Workflows」は、既存のERP(Enterprise Resource Planning)システムと接続し、AIを活用してインサイトを得るソリューションだ。AI、機械学習、RPA(Robotic Process Automation)を使用し、企業横断的なデジタルワークフローを通じて、調達、買掛金、サプライヤー管理などのプロセスのモダナイズを支援するという。

ITとビジネスは互いを支え合う存在に

基調講演の話題は、IT部門とビジネス部門の関係性にも及んだ。最大の課題は、長年にわたって「IT VS ビジネス」という対立構造が続いていることだ。現状を打破するうえではCIO(Chief Information Office)の存在が重要だという。今ほどテクノロジーが戦略的に利用されるべき時はなく、その方向性や具体的なソリューション、自社における課題などを検討するうえで欠かせない存在となるからだ。

マクダーモット氏によれば、「CEOはイノベーションに取り組む必要があると理解している」が、ビジネスモデルの再構築や新たな人員採用、そのためのコストなどから、テクノロジーの利用をためらっているそうだ。

「CEOは勇気をもってイノベーションを進めなければいけないし、CIO、そしてITチームはそのために必要なことをCEOに伝えなければいけない。ITとビジネスはお互いを支え合う存在になる必要がある」とマクダーモット氏は述べた。

  • 「今日において、IT戦略こそが経営戦略だ」とマクダーモット氏は強調した

    「今日において、IT戦略こそが経営戦略だ」とマクダーモット氏は強調した

ここ数年、同社では公共、金融など産業ごとのサービス提供に注力してきたが、IT部門とビジネス部門の協業に向けたサポートの取り組みも強化していく方針だ。

最後にマクダーモット氏は、「あなたが働きかけることで世界は動き出す。だから、あなたが働き出すことにYesと言ってほしい。一緒にエクスポネンシャル・エンタープライズを作っていこう」とイベントの参加者たちにメッセージを送った。