A型インフルエンザに罹患したマウスにエタノール蒸気を適切な濃度で吸入させると、感染を抑制できることが、沖縄科学技術大学院大学の研究で明らかになった。手指などのアルコール消毒に使われるエタノールを、呼吸器に吸入することでウイルスの被膜を壊し、不活化するという。今回の結果を基に、ヒトへの応用や新型コロナウイルスに対する効果の可能性などについて研究を進める考えだ。

沖縄科学技術大学院大学量子波光学顕微鏡ユニットの新竹積(つもる)教授(物理工学)と同大学院大学免疫シグナルユニットの石川裕規准教授(免疫学)らが共同で研究に取り組んだ。

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    マウスにエタノールを吸入しインフルエンザウイルスを抑制する仕組み(沖縄科学技術大学院大学提供)

石川准教授は、メスのマウス5匹にA型インフルエンザを感染させ、50%エタノール溶液を蒸気にして加湿する器機につないだかごに入れた。エタノールの蒸気をマウスに吸わせると、呼吸器で濃縮される。その際、インフルエンザウイルスが持つ皮膜のエンベロープが壊れると同時に、エタノールの毒性でマウスの上皮細胞を傷つけない濃度を調べた。

50%エタノール溶液から蒸気になったエタノールの濃度変化の計算を重ねた結果、マウスの体温37度付近における呼吸器の液相に対して、エタノール濃度20%でインフルエンザの不活化効果が出ることが分かった。必要とされる加湿器の蒸気のエタノール濃度は4%。4%の濃度の蒸気を吸えば、呼吸器表面に届いたときには20%に濃縮されて効果が現れ、同時にマウスの細胞にも毒性を与えないで済むという。

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    インフルエンザウイルスを抑制するために使った装置の模式図(沖縄科学技術大学院大学提供)

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    不活化されたインフルエンザウイルスを電子顕微鏡で確認できた(沖縄科学技術大学院大学提供)

新竹教授はウイルス学とは一見無縁の太陽光発電や量子波工学顕微鏡を研究している。新型コロナウイルス感染が国内でも広がりを見せた2020年、「ウイルスというのは非常に小さく、ウイルスを囲むエンベロープという『薄い包み紙』を壊すのは、物理的には簡単そうだ」と考えた。新型コロナウイルスを霧状のエタノールで物理的に「壊す」ことはできないのかと隣に研究室を構える石川准教授に相談したところ、「新型コロナは(当時)2類感染症なので研究室で扱えない。A型インフルエンザとマウスでやってみましょう」という話になったという。

結果を基に今後は、5類になった新型コロナウイルスや鳥インフルエンザなどにも同様の効果がみられるのか、また、ヒトにも応用できるのかといった新たな実験を行いたいという。

ただ、今回はマウスの実験であり、新竹教授は「人間が加湿器に高濃度エタノールを入れて充満させると爆発するリスクがある」と注意を促す。石川准教授も「吸入実験のあと、マウスは数分間酒酔いのようにふらふらしていた。ヒトの実験ではないので断言はできないが、未成年や、アルコールに弱い人には使えないかもしれない」と懸念を示す。

一方、この方法がヒトで確立すれば、効果が出るのに時間がかかる飲み薬よりも早く、直接ウイルスに効いて即効性のある治療法になる可能性がある。

今回の成果は米感染症学会の「ザ ジャーナル オブ インフェクシャス ディジーズ」4月27日付電子版に掲載された。

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